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今こそ必要とされる、リーダーの話す力ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

新型コロナウイルスの影響下で、コミュニケーションの機会が限定される今、何を語れば人の心は動くのか?

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 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。


リーダーには、「話す使命」がある


『THE SPEECH 人を動かす話し方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトに移動します)

 私が話し方を指導する会社を立ち上げたのは2005年のことでした。当時、日本の経済はまだまだ好調で、電化製品などを中心に、日本製が世界基準といった分野も少なくなかったと記憶しています。

 そんな中で、私は企業のトップに「話し方を学びませんか?」と営業をし始めたわけですが、話し方の技術を必要としている人はアナウンサーくらいで最初は全く相手にされませんでした

「話し方など下手でも技術力さえあれば十分だ」

「話が多少下手な方が、朴訥(ぼくとつ)とした良さがある」

 そういう理由で断られ続け、会社に勤めていたころにためていた貯金は減るばかり。周囲からは、「いったい何カ月持つのだろう」と、同情の目で見られていたものです。

 でも私は心の中で「この人たちは、話す事が苦手で嫌だから、それを何とかして回避しようとしているのだ」と自分を正当化していました。生意気にも「社長には話すという使命があるのに、そのことに気が付いていないだけだ」とも思っていました。

 その後、リーマンショックを経て、景気は一気に冷え込み、時代は急激にグローバル化を加速させました。今まで国内企業だけを意識していた日本企業は外国の企業と闘わなくてはならなくなったのです。

 プレゼンで対抗する相手も外国人、上司が外国人、指揮をとらなければいけないプロジェクトのために海外に駐在し、工場のスタッフは全員、文化も知らない国の人々……という状況に多くの人が直面しました。シャイであることを言い訳にせず、誰にでも分かりやすく話すことや人前で堂々と主張する事がシビアに求められるようになったのはこの頃からです。

 ちょうどその頃、ソニーの元社長である出井伸之さんに会う機会がありました。自己紹介がてら、日本のリーダーに話し方をトレーニングする会社を経営していることを話したところ、「日本の社長は、もっとスピーチ力を磨く努力をすべきだ」と、私にエールをくれました。

 中でも、「社長は、卵の中身、会社は卵の殻だ。会社があってこその社長ということに、会社がなくなって初めて気が付く人が多い」という言葉は、今でも私の記憶の中に残っています。

 社長は卵自体ではなく、卵の中身。

 だからこそ、主観はひとまず置いておき、会社のために語るべき使命があるのであれば、苦手でも、朴訥とした個性を捨ててでも、スピーチ力を磨き、きちんと説明できるようにすべきだと、出井さんは教えてくれたのです。

 エグゼクティブスピーチを学ぶ人の中には、今まで、話す事が苦手で人を導く立場を避けてきた、という人も珍しくありません。とてももったいないことだと思いますが、気持ちはよく分かります。

 なぜなら話すことはとても怖いことだからです。自分がどういう人物で、どういった人生を歩み、どのような価値観を持っているのか?ありのままの自分を相手に披露し、その評価にさらされるのです。

 全ての人が自分の意見に合意してくれるなんてことはなく、誰にも嫌われないというような夢のようなこともありません。スピーチをしている最中に大失敗をして、「あの人はリーダーにふさわしくない」なんていう評価を受けるリスクさえあります。

 スピーチとはよく知らない相手に、自分自身を包み隠さずさらすようなものなのですから、怖くないはずはありません。けれども、リーダーとして語る使命があるのであれば、主観を捨て恐怖心に打ち勝ち、演壇に立たなければいけません。スピーチがあなたにとってどれほど怖いものであっても、です。

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