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社会アーキテクチャの中で自社がかなえる生活者の幸せの愚直な追求視点(1/2 ページ)

多様な製品やサービスが次々と登場して暮らしを豊かにしてくれる現在、品質とコストだけで選んでもらえる状況ではなくなった。

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Roland Berger

 近年、日本の製造業の収益力が低下している。実際、財務省の法人企業統計調査でも、日本の製造業の平均営業利益率は17年度の5.1%から18年度の4.6%へと、リーマンショック以降の増加基調から初めて下落に転じた。これは決して一時的なものではなく、本質を体現したものと捉えている。その本質とは、技術起点の事業か、それとも価値起点の事業か、である。

 日本の製造業の多くは従来、アプリケーションメーカーを頂点としてティア1、2……から成るピラミッド構造であった。その中で、高い技術力に裏付けされた品質とコストのバランスに重きが置かれ、それが生活者からも評価を得てグローバルでの存在感を確立してきた。しかし、多様な製品やサービスが次々と登場して暮らしを豊かにしてくれる現在、品質とコストだけで選んでもらえる状況ではなくなった。

 では、そもそも企業は何を提供していくべきなのか。それは生活者が実感しうる価値、すなわち幸せである。20年3月、トヨタ自動車はNTTとの協業を発表した。その記者会見で豊田章男社長は、「トヨタの原点は全ての人に幸せをお届けすること」と発言している。これこそ、トヨタに限らず製造業含めた企業における最上位の概念であり、全てはそのための手段ともいえる。それを実現するには、全ての人にとっての幸せを理解することが必要となる。NTTとの協業は、幸せを理解するのに役立つ情報基盤づくりと捉えることもできる。

 個々人の生活や行動がつまびらかになれば、この人は何に価値を見いだすのかが見えてくる。当然のことながら、個人情報が筒抜けになることに対して、「嫌だ」と思う人もいれば、「結果的に自分にフィットする製品やサービスが手に入るならさほど気にしない」という人もいるだろう。そのように、取るべき情報自体も個々人によって変えることが理想である。その上で、幸せを体系化して、それ毎に製品やサービスを組み合わせて提供することが重要となる。

 一つ一つの製品やサービスを的確な顧客にタイムリーに提供しようという考え方は、提供者視点である。人の生活は連続的であり、さまざまなシーンの組み合わせで成り立っている。より多くの幸せを提供するためには、その人のとっての幸せを見極めた上で、それに資する製品やサービスを纏めて提供することがポイントとなる。

 そのためには、見立てた個々人にとっての幸せと、それを実際に実感できる製品やサービスのひもづけまでできる情報基盤というのが望ましい。もちろん、それを製造業各社が自ら取得しなくてはならないわけではなく、情報を保有する企業と組めばよい。製品やサービス、またはインフラや情報基盤は手段にすぎない。いかに人の幸せを起点とした事業づくりを貫くことができるかが鍵となる。

 実際、20年7月には日立製作所が独自の幸福度計測技術を、まちづくり、職場環境整備、介護・医療、住まい選びなどのさまざまな場面で活用するハピネス&ウェルビーイング産業の創成に向け、株式会社ハピネスプラネットを設立した。

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