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AI栄養士が食事のアドバイス 創業70数年の食と健康の思いをIT活用で新たな価値に変革――「あすけん」天辰次郎氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

創業70数年の食と健康の歴史があるグリーンハウスが、100%出資する「食×テクノロジー」のベンチャー企業であるasken。ヘルスケアアプリ「あすけん」の挑戦と成功の要因を紹介する。

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 アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol. 7」が開催された。Day1特別講演には、asken 執行役員の天辰次郎氏が登場。「食と健康70年の思いをDX 会員数530万人超のヘルスケアアプリ あすけんの挑戦と共創」をテーマに講演した。

IT活用で新しい食の価値を顧客に提供するasken


asken 執行役員 天辰次郎氏

 1947年に創業したグリーンハウスは、「人に喜ばれてこそ会社は発展する」という社是に基づき、社員食堂や学校給食、病院・介護施設食などのコントラクトフードサービス、「とんかつ新宿さぼてん」などのレストラン・デリカ事業、ホテルマネジメント事業など、“食”を中心とした事業を展開している。

 グリーンハウスが受託運営している社員食堂の店舗数は、全国2500以上。1800人以上の管理栄養士、および栄養士が在籍し、栄養指導の分野では30年以上の実績がある。これまで培った経験やノウハウ、経営資産を生かし、ITの力を活用することで、新しい価値を顧客に提供することを目的に、2007年に設立されたのがaskenである。

 会社名がaskenで、主力サービスとして展開しているのが「あすけん」である。あすけんは、AI栄養士が食事のアドバイスをしてくれる食生活改善アプリ。当初は、PCアプリとして開発されたが、現在はスマホアプリとして展開。無償版も提供されるが、月額480円で無償版にはないサービスを利用できる。

 「PCアプリの時代からコンセプトは変わらず、食事を記録すると、栄養素が計算され、AI栄養士がアドバイスをしてくれます。2021年2月現在、国内外で530万人以上の会員に利用され、食生活改善アプリとしては、国内トップクラスの会員数で、新型コロナウイルス禍においても安定してビジネスが成長しています」(天辰氏)

 媒体特性を生かした広告商品の展開も特長の1つ。例えば、タンパク質が不足している会員に、タンパク質が摂取できるパンを紹介したり、お菓子が過剰な会員に、食べても影響の少ないお菓子を紹介したりする。会員数が530万人以上なので、バナーでも効果はあるが、よりお客さまに喜んでもらえる広告商品を配信している。

 法人事業では、企業、健康保険組合、自治体など、数百人、数千人の単位で、セミナーなどのサービスを付加したプレミアムサービスを提供。グリーンハウスの社員食堂事業と相性がよく、社員食堂で健康的な食事を提供し、管理栄養士がアドバイスを行い、さらにあすけんを利用することで、いい健康習慣が根づいている。こうした取り組みにより、厚生労働省の「健康寿命をのばそうアワード」も受賞した。

 また、健康な利用者だけでなく、糖尿病などの持病を持つ患者にあすけんを使ってもらうべく大学病院と連携することで、医療分野においてもさまざまな研究開発を実施。日本医療研究開発機構の助成金事業としても、あすけんの利用と研究が進められている。

 さらに、さまざまな企業とのコラボレーションも実現。例えば、コカ・コーラ ボトラーズジャパンでは、あすけんに記録した回数に応じ、無料でドリンクがもらえる健康自販機を展開。また、ファンケルのPersonal ONEでは記録された栄養価、栄養素の情報から利用者に最適なサプリメントを提案するサービスを実現している。

 その他、海外事業も展開。米国とカナダでの英語版を公開している。天辰氏は、「海外で、食事記録やアドバイスというコンセプトが受け入れられるか心配でしたが、公開してみるとアドバスの評判がよく、レビューでも、4.4〜4.7と高く評価されています」と話している。

スマホアプリの公開で成長が成長を生む状況を確立

 「利用者数530万人と、急成長を遂げているあすけんですが、ここまでの道のりは平たんではありませんでした。2007年、創業当時のサービスイン期の成長は微増で、まったく成果が出ませんでした。その後、2009年〜2013年の潜伏期・模索期、2013年〜2016年の転換期を経て、2016年以降にグロース期で急成長できました」(天辰氏)。

 サービスイン期、あすけんは、グリーンハウスの顧客に健康サービスを届けるというコンセプトで開発され、健康保険組合をターゲットとしていた。またガラケー全盛期だったので、携帯電話向けではなく、PCアプリとしてリリースされている。当初は、法人向けに営業展開したが、成果が出なかった。

 天辰氏は、「当時は社員の健康に気をつかう企業は、まだ多くありませんでした。期間限定で、無償で個人の入会も可能にしましたが、特に広告展開などしていなかったので、1日の入会者数はほんの数人でした。しかし、のちに芽が出る種は植えられました」と当時を振り返る。

 植えられた種の1つは、本格的な自動アドバイス機能である。当時はおそらく日本初のサービスで、2021年現在でも、AIを活用した本格的な自動アドバイスを提供できる企業は世界的にもあまりない。14年前から自動アドバイス機能を実現できていたのは、強力な種まきだった。

 また、初期の段階からロイヤルカスタマーとなるファンを獲得できたことも種の1つ。カロリー計算やレコーディングダイエットというキーワードがブームになる前だったので、安い価格で検索キーワード広告を展開でき、2008年にレコーディングダイエットがブームになり、一気に検索数が増え、若い女性を中心に数千人の会員を獲得した。

 会員数は増えたが、もうかるビジネスモデルはまだ構築できていなかった。当初の事業計画では、数年間で黒字化をして、その後急成長を遂げる計画だったが、事業的には赤字続きだった。そのため広告予算もなく、口コミの集客頼みだった。さまざまな取り組みを展開したが、なかなか成果は出なかった。

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