検索
連載

コロナ禍の今こそDXでビジネスモデルを見直す好機――ANA 野村泰一氏デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で、夢にあふれる未来に貢献することを目指す全日本空輸(ANA)。コロナ禍の最中も、環境の変化に迅速かつ柔軟に対応できる強靭(きょうじん)な体質と攻めのスピード経営の実現に向けたDX戦略を着実に推進している。ITmedia エグゼクティブ エグゼクティブプロデューサーの浅井英二が話を聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 1952年、日本初の純民間航空会社としてわずか2機のヘリコプターから事業をスタートしたANAだが、「世界のリーディングエアライングループ」を目指し、たゆまぬ努力と挑戦を重ね、今や世界トップクラスのエアライングループへと成長した。

 2018年度からは、中期経営戦略の一環として、ICTとオープンイノベーションを活用し、新たな価値を創出するデジタル変革(DX)を推進してきた最中、新型コロナの感染拡大が直撃する。DXによってANAが目指すのは、お客さま満足度の向上とともに、従業員のスマートな働き方の追求による生産性向上とコスト削減の実現である。「コロナ禍の今こそ好機」と話す野村泰一イノベーション推進部 部長に話を聞いた。


ANA 野村泰一イノベーション推進部 部長

デジタル技術の活用とソリューションの内製化でDXを推進

 ANAをはじめとする航空運送業界では、2020年初めより続くコロナ禍の直撃を受けている。過去にも鳥インフルエンザやSARSなどの感染症による被害を経験している航空運送業界だが、そのときよりも大きなインパクトを企業経営に与えている。

 例えば1990年代後半より、ANAに限らず多くの航空会社で重要な市場となってきたのが、ビジネスパーソンの出張需要である。これをいかにすれば取り込むことができるかといったマーケティング戦略と、その戦略を支えるシステム構築が、ビジネス拡大にとって重要なテーマだった。

 しかしコロナ禍による緊急事態宣言で、政府が出社率7割減を推奨し、出張の多くがリモートワークに移行されたことにより、出張需要は激減した。Go Toトラベル事業も停止され、頼みだった個人の旅行需要も足踏み状態となり、航空運送業界の厳しさに追い打ちをかけている。

 野村氏は、「コロナ禍とはいえ、ANAは苦境に強いDNAを持っている会社です。コロナ禍の今こそ、これまでの業務やビジネスモデルを見直す良い機会です。お客さまの動向をきめ細かに把握し、その期待にこたえる新しいサービスモデルを創るなど、航空会社ができることを改めて考える大きなチャンスです」と話す。

 もちろん、より一層の全社的な生産性向上やコスト削減を進めていくことは、情報システム部門に期待されている、変わらない重要な取り組みの一つである。そのためには、メインフレームで稼働するサイロ化された巨大な基幹システムではカバーできない、人海戦術で対応しているような、業務システム間のボトルネックを解消することが必要になる。

 「新たなサービスモデルを創り、生産性向上・コスト削減という2つの課題解決は、コロナ禍だから必要なのではなく、これまでのDXに対する準備の一つです。イノベーション推進部に着任した2017年から取り組んできたデジタル技術を活用し、ソリューションを内製していくというのが課題解決に対する答えです」(野村氏)。

CE基盤で新たなビジネスやサービスモデルを創出

 新しいサービスモデル創りへの貢献と、生産性向上、コスト削減の両立は、デジタルテクノロジーに対する経営層の期待でもある。新しいサービスモデル創りへの貢献では、「Customer Experience(CE)基盤」と呼ばれる仕組みを2018年に構築している。CE基盤は、業務システムごとに散在するお客さま情報を、APIを介して連携されたマイクロサービス型のシステムによりデータを抜き出し、活用しやすくするもの。2020年には、CE基盤上にストリーミングエンジンと呼ばれる新たな仕組みも搭載している。

 「ストリーミングエンジンは、カスタマージャーニー上のさまざまなトリガーを使い、条件にあったお客さまに働き掛けられるようにする仕組みです。例えば“搭乗時間の45分前までに保安検査場を通過したお客さまに、搭乗口近くの売店で使えるクーポンを送付する”ことが可能です。こうしたアクションを蓄積することで、お客さまから学び、新たなビジネスやサービスモデルにつながります」(野村氏)

 45分前までに保安検査場を通過するとクーポンがもらえるという施策は、オペレーションとマーケティングという異なる部門が連携し、互いに成果を上げられるという点で意味がある。オペレーション的には、45分前に保安検査場を通過し、搭乗口近くの売店で買い物してくれることで定時運航率を向上させることができる。またマーケティング的には、クーポンを提供することでお客さまの反応を把握でき、さらに効果的な施策の策定に役立つ。


案件をデザインしながら環境を変える〜CE基盤

 一方、生産性の向上とコスト削減では、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)を守ることを至上命令としてきた情報システム部門のマインドを新しいテクノロジーによって変えていこうとしている。「イノベーションハニカム」と呼ばれるANA独自の手法により、RPAやAI、ロボティクス、チャットボットなどのテクノロジーを組み合わせることで、それを得意とする技術者同士が連携してソリューションを構築でき、さらにそこから生まれるデータを活用することで、次はどのような業務の生産性向上に取り組むかというビジネスデザインの連鎖を実現できる。

 「例えば、搭乗するお客さまの数を予測することで、機内食の数を適正にしたいというニーズは、担当する部門が変わることで、お客さま満足度の向上やコスト削減というニーズに対応できます。さらに、異なる部門が連携し、ステークホルダーを増やすことで、フードロスの削減という社会的課題への対応にもつながります。デザインの仕方により、価値を大きく変化させることができます」(野村氏)


テクノロジーナレッジを持つことでQCDを上げる〜イノベーションハニカム
       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る