今回依頼があったこの原稿は久しぶりの欧州出張の途中に書き始め、帰国して隔離されているホテルの一室で仕上げています。
国内だけでなく、海外との打ち合わせもほぼ全てがオンラインにシフトした中、久しぶりに海外で対面で仕事をするという機会を得ました。そこで「グローバルにビジネスを進めるうえで必要なマインドセット」について、考えてみました。
今回の出張のあらましを共有しながら、国や文化についてどう意識したらいいのか、そして何を、どう話すかということなどを、以下の流れに沿ってエピソードを交えて共有します。
- 今回の出張のあらまし:対面が必要か?
- 「日本人との仕事は難しかった」:その場で感じた違和感は表明する
- 「話せばなにか出てくる」は通用しない:目的や目標を明確に
- まとめ:「グローバル」とはなにか?
1、今回の出張のあらまし
私はOXYGYというコンサルティングファームのアジアの代表をしています。アジアの代表といっても、欧州を中心に米国1拠点、アジア(東京)1拠点で合計7拠点、全世界で100人弱の規模です。アジアだけでなく、欧州、米国拠点とも連携し、私達の新しい発想や提供できる価値を世の中に出していかなければなりません。
そんな中で、1年半ぶりに欧州3カ国を廻りました。欧州域内での3回の移動を考えると、仕事に使えるのは実質約5〜6日という日程です。リターンはあるのか、という話になります。結論としては行ったかいがありました。
一方で、リモートでもできる部分を再確認したことも事実です。まずは対面による効果や必要性を考えてみました。
15年を超える付き合いの友人から紹介された、パリにある創業から6年となるスタートアップ企業は、「直接会ってもらわないと、内容は話せない」と言われていました。ようやく今回実現です。
初対面のミーティングでは、業務内容だけでなく、起業時からの歴史や今後の課題を共有してもらい、討議をすることで先方の組織や人間関係、対外的な部分での状況などを深く理解できました。「ミーティング」「会食」「雑談」その全てに意味がある時間でした。こうした密度での時間、人間関係の構築や文脈の理解は、リモートでは確かに限界があったと思います。
2日間の中で自分を作っても仕方ない、むしろ率直にいいと思うこと、難しいと思うこと、できる・できないなど、ざっくばらんに話をしようと心掛けて臨みました。この姿勢は後述する「具体的に話す」というグローバル・ビジネスでの一つのコミュニケーションプロトコルにつながることです。
その逆で、リモートだからこそ価値を生み出せることもあります。
講演者、パネリストたちが異なる国から接続することで実現できた企画で、聴衆も対面に加えて、欧州、アメリカと世界のさまざまな国から参加というものでした。私は今回の出張中に、ワルシャワのホテルから参加しました。参加者たちとは、カンファレンス後の個別でのバーチャル立ち話しもできます。リモートでデジタルだからこそ可能で価値があることだと改めて感じました。
今回の出張で、久しぶりに毎日対面で過ごすという経験の中で、仕事がリモート前提になり過ぎていて、あえて会って話したほうがよいとき(もちろんコロナ対策と、相手の同意が前提で)と、その理由があるときのことを、考えてみました。
2、「日本人との仕事は難しかった」:その場で感じた違和感は表明する
「昔よく日本に出張したわよ。渋谷の文化村で2カ月位イベントを打ったり、3カ月位日本の小売店やユーザーへのインタビューをしたり」こう話しかけてくれたのは、ミラノでのミーティングで私の隣に座った、弊社のシニアコンサルタントのイタリア人女性、ミラノ出身のラウラです。
日本大好き、というのは世界中のどこに出張してもよく聞きます。こちらも出張する国々で必ずその国のよさを伝えますし、お互いの国のよいところを話すということは、本題に入る前に交わされるグローバルコミュニケーションのうえで、一つの標準プロトコルです。
京都や、すしや銀座のことなど、分かってはいてもうれしい話を一通り聞いたり、私もいかにイタリア、中でもミラノが好きかを話したりした後、「でもね」と続き、少しドキッとしました。
「日本人と仕事をするのは、本当に難しかった」、と切り出されたからです。
イタリアの著名ブランドのマーケティングをしていた彼女は、日本でかなりの投資となるキャンペーン実施のために、隔月に一度程度日本に出張していたときのことを話してくれました。
「最初のミーティングで、私ができるだけ詳細にマーケティングチームの考えを説明したの。質疑応答も活発で、十分理解してくれたと思って安心して帰国して、2カ月後に再訪問してみると、 全く進んでなかったのよね。2カ月後に再訪問したミーティングでは、一度説明して同意が取れたと思っていた案の大半について、“日本ではそんなやりかたはしない”と言われ、アクションをとっていなかった理由をいろいろ教えてくれたわ。“In Japan, we don’t do this”と何度も言われて、ショックだった。だって、最初に説明したとき、“私達の考えは説明するけど、日本で受け入れられるかどうか含めて、今回の訪問中に議論しましょう“と切り出してスタートしたのに」
どんな国にも、その国の市場なりの仕事の仕方や表現の特徴があります。そのことを表出し、議論し、課題があることを各市場の代表として表明し、それについてどこまでを市場ごとの特性に合わせるか議論する。その第一歩から見事につまずいてしまったのでした。
ラウラは「だんだん慣れていったから、こちらから日本のスタッフにどう確認すると議論ができるかや、ミーティングの進め方も覚えたけどね」と笑っていましたが、なぜ最初の説明の段階で感じた「違和感」をその瞬間に表明できなかったのか。これはグローバルにビジネスをするうえで、欠くことのできない必要条件だと思います。
グローバルなミーティングに出ると、いろいろ議論している状況を見ながら、「そんなことを聞かなくても分かるだろ」「いま話す文脈じゃないだろう」と思うことが、正直私自身にもよくあります。恐らく日本人だけでのミーティングであれば、「分かっていない」と言われそうなことを、気軽に口にする人がいます。今回の出張では、まさにそんな質問や発言をする場面に、久しぶりに接して改めて思い出しました。
思ったことを何でも、どんなタイミングでも言うべきだ、という意味ではありません。海外でのミーティングでも、人の話をさえぎって、タイミングを意識せずに話続ける人には、人が集まらなくなってきます。
ただ、議論した中での違和感や理解できないこと、自分の考えと違うことは、できるだけリアルタイムで発言することが必要です。そうした発言や姿勢には多くの人が寛容で、むしろ歓迎されます。国や文化、考え方や言葉が違う、つまり多様性のあるグローバル組織で仕事を進めるには、発言がその場でなければ内容には反対ではない=ほぼ同意、という前提が発生するからです。
3、「話せばなにか出てくる」は通用しない:目的や目標を明確に
つい最近体験した別件でのエピソードを共有しましょう。某大手日系企業が、海外企業と組んでプロジェクトをすることになりました。海外のパートナー候補との議論が、どうもいまひとつかみ合わないのです。その会社はスイスに本社があり、経営陣は欧州中心に多国籍、言葉のアクセントも全然違う、欧州ではよくある経営陣の企業です。
日本企業側の担当者が「うーん、向こうの説明を聞くとウチのやりたいことだけでなく、違うことも一緒についてきそうなんだよね。こちらの状況に合わせた提案をしてくれないと進められないなー。他の会社も考えてみてくれませんか?(私に対して)」
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