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第3回 デジタル人材とは構想と実現の「両利き」を目指すこと“デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー”ではじめるDX2周目(1/2 ページ)

DXに取り組み、進めたいという話の中で必ずといって良いほど直面することがある。それは「デジタル人材」問題だ。どのように取り組めばいいのだろうか。

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DXは常に泥縄にならざるを得ない


『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』

 DXに取り組み、進めたいという話の中で必ずといって良いほど直面することがある。それは「デジタル人材」問題だ。DXの進捗の柱を3本数えるとしたら必ずそのうちの1本として存在する(残りの2本は「ツールを使って省力化」と「AI使って何かする」が定番)。DXに取り組もうと決めるのは良いが実際のところそれを進める人材がいない。それどころか、DXの企画、戦略を立てる人材がそもそもいないというところから始まるのも珍しくないだろう。

 当然といえば当然だ。これまで最適化してきた営みとは、既存の業務や事業を遂行する上で必要なケイパビリティをいにしえからの延長線で磨き続けることだったのだから。仕組み自体を見直すだとか、根本的に方法を変える、やめるという選択肢があがってこない。デジタル技術やデータを活用してうんぬんという組織的なニーズがこれまでは大した高まりにもならなかった。そうした環境下で、新たな技術、ケイパビリティを戦略的に獲得していくことに本腰が入るはずもない。現場も現場で実験的に取り組んだところで、日常の業務で適用する機会が乏しく、活動が続かず技術が育っていかない。そうした状況を十数年にわたって続けてきた結果が今ここだ。

 こうしたやれるべきことに取り組めてこなかった組織の「デジタル化負債」を一気に返済しようという機運がDXというわけだ。その実践者の確保と、デジタル化戦略を立てること自体を両方「同時に」行う必要がある。DXはその組織的背景から常に泥縄な取り組みになる。もちろん、いまさらその状態に悲観したところで何も好転はしない。構想を立て、1つ1つ着実に実現していくより他ない。

 というわけで、「デジタル人材像を立てるところから」という話がたいていの組織で関心ごととして真っ先にあがる。ここで勢いよく立ち上がってしまうのが「一休さんのびょうぶのトラ」である。戦略を説明するプレゼンテーションは資料的には充実していて一見立派だが、その中身の実現性については何も検証がされておらず、まさしく絵を描いただけ。全社員にデジタル技術を身につけさせる、ほにゃららの認定資格を全員取れという極端な号令へとつながる。

DXの要とは「構想と実現のボレー」

 根幹となるデジタル人材戦略を立てるところからして、びょうぶのトラDXに陥ってしまいかねない。戦略倒れではなく、さりとてやみくもな実行ありきでもなく、という動き方をいかに組織に早期に宿せるかが要となる。このケイパビリティこそ、あらかじめの正解が描けないところで仮説を立て、検証によってその学びを得て漸次取り組み進めていく「探索」の組織能力ということになる。

 探索の能力はより突き詰めると「構想力」と「実現力」からなる。その言葉の通り物事の構想を立案するためのスキルと、ただ思い描くだけではなくそれを実現プランに落とし込み着実に実行を重ねるためのスキルというわけだ。特に重要なのはさらに構想と実現の両者の間をボレーのように繰り返していくことである。そうでなければ、実行からのフィードバックが得られないままの「びょうぶのトラ」構想となる。

 構想と実現の両者の必要性は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「これからの人材のスキル変革を考える〜DX時代を迎えて〜」(2019年)という発信の中にもある。

 図のプロデューサーはDXにおける「実現」を、ビジネスデザイナーは「構想」側を担う役割といえる。本提言の中で、これらの役割・スキルが組織内で圧倒的に不足しており、その育成が組織課題になっているという示唆がある。こうした能力は組織の根幹を担っており、外部に依存し難い。組織内での育成を念頭に置く必要がある。

 さらにこの両役割で具体的に必要なスキルをあげると、構想としては「仮説検証」、実現としては「アジャイル」となる。繰り返しになるが新規の取り組みなど、道筋自体が描けない不確実性の高い状況で、よりどころとなるのは既存事業で培った経験と勘ではなくて「新たな学習プロセス」である。勝ち筋や正解が見えないからこそ仮説を立てる。しかし、仮説を立てっぱなしにしてそのまま実行していくのでは単なる妄想頼みでしかない。仮説を立てた後はその確からしさを得るために検証を行う。こうした仮説検証の繰り返しによって新たな道筋をつかむ、これがDXにおいて求められる「構想」である。決して机上、資料上で終わるプランニングのことではない。

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