富士通のDXはトライ&エラーを繰り返しながらスピーディーに進化――富士通 福田譲氏:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)
DXとは何であり、どのように理解し、どう向き合い、いかに取り組むべきなのだろうか。現在進行形の富士通の全社DXプロジェクトをケーススタディーとして紹介する。
アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol.12 マルチクラウド時代の情報システム基盤戦略」が開催された。Day1の基調講演には、富士通 執行役員 EVP CIO、CDXO補佐である福田譲氏が登場。「日本企業のDX(デジタル変革)〜 Case study:富士通」をテーマに、「フジトラ(Fujitsu Transformation)」と呼ばれる富士通の全社DXプロジェクトについて紹介した。
DXは日本企業が得意な業務改善ではない
「DX(デジタルトランスフォーメーション)はさなぎが蝶に変わるように完全変態することで、日本企業が得意な業務改善ではありません。富士通では、2019年7月に公開された経済産業省のDX推進指標に基づき、DXを“データとデジタル技術を活用して、競争上の優位性を確立すること”と定義しています」と福田氏は話す。
競争優位性を確立するためには、製品やサービス、ビジネスモデルだけでなく、業務プロセスや組織、企業文化・風土もあわせて変革することが必要。そのためには、データとデジタル技術の活用が効果的。ただしIT活用は目的ではなく単なる手段。あくまでもトランスフォーメーションが目的であり、経営がリードして実行する必要がある。
「日本企業における経営改革の最大の障壁は“経路依存性”であると考えています。表面的な1つの課題は、その背後でさまざまな他の前提条件と密接に絡み合っています。この経路依存性をいかに打破するかが重要なポイントです。例えばダイバーシティに各社が取り組んでいますが、女性管理職比率の向上だけに注目しても、なかなか現状を変えることはできません」(福田氏)
新卒一括採用で、終身雇用、メンバーシップ型雇用、同質な働き方を促す社内ルール、女性のライフイベントによる休職など、評価やキャリアに影響を及ぼす現在の人事制度では、シニアな女性タレントが生まれにくい。ダイバーシティという表層的な問題に着目するだけでなく、背後にあるさまざまな障壁を同時に変えなければ本質的な変化は起こせない。
人事制度だけでなく、企業戦略、ポートフォリオ、業務プロセスなどが絡み合っており、過去に最適化された会社の仕組みを、今後ありたい姿に向けて一斉に変えていくことが必要だ。そのためにはトップの強力なリーダーシップのもと、経営チーム全員の共通理解を作り、タイミングを合わせて全社で一斉に取り組むことが重要。
富士通のDXの全体像は、DXコンサルティングを提供するグループ会社であるRidgelinezの方法論に基づいている。DXの実現には、CX(事業そのものの変革)、EX(人・組織・カルチャーの変革)、MX(マネジメントの変革)、OX(オペレーションの変革)の4つのXが必要で、もっとも重要なのが4つのXの中心となる「パーパス(存在意義)」である。
「わが社は、何のために存在するのか、どのように社会や顧客から必要とされる会社になるのかを、いま一度定義したり再認識することが重要です。パーパスを中心に4つのXを推進するのに重要なのが、デジタル、IT、データをいかに効果的に活用するかです」(福田氏)
DXの推進には推進体制・メカニズムが必要
全社規模のDXを効果的に推進するには、推進体制・メカニズムが鍵になる。富士通では、2年前にCEO自らがCDXO(最高デジタル変革責任者)に就任し、富士通のパーパスを「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」と再定義した。このパーパスを実現できる会社になるために全面的に社内改革を推進することをDXと位置付けている。DXは経営戦略の実現そのものということだ。
「2020年7月のIR・経営方針説明で富士通自身が変革することを宣言し、10月に全社DXプロジェクトとしてフジトラをスタートしました。フジトラで大事にしているのは、経営のリーダーシップ、現場が主役・全員参加、カルチャーの変革の3つです」(福田氏)
フジトラの推進体制は、経営のリーダーシップを発揮するステアリングコミッティ、経営直下のCEO室でDXを推進するDX Designer、現場が主役・全員参加のための各部門のDX Officer、および社員のDXコミュニティ/フジトラクルーの4階層で構成。社員のDXコミュニティは社内SNS上に存在していて、富士通の約12万5000人の社員のうち約8000人が参加している。
この体制で重要なのは、トップがきちんとステアリングを握っていること、現場が主役の全員参加型の取り組みを進めること。トップダウンとボトムアップの両輪でDXを推進し、パーパスの実現のために変革すべきテーマは、ITへの関連性の有無を問わず、全てを対象としている。
変革のアジェンダを俯瞰し、マネジメントするために、「全社DXモデル」も定義している。この全社DXモデルは「両利きの経営」の実践を模式化しており、既存事業の進化、戦略事業や新規事業の創出、それを支えるコーポレートの3領域で構成される。そして、変革のドライバーとして、パーパス、事業戦略、データ&マネジメント、オペレーション&IT、カルチャーの5つを定義している。
福田氏は、「多くの企業と同じく、富士通も経営の重心が既存事業に傾いています。これを真ん中に戻すことで、事業の全体を見つつポートフォリオを常に最適化し続けるコーポレートの仕組みへと変えることを目指しています」と話す。
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