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第2回 「パーパス経営」は売上に貢献するのか?「売上の地図」に学ぶ、売上づくりの極意(1/2 ページ)

パーパスがあることで売上は増えるだろうか? 増えるか増えないかではなく、パーパスと売上はレイヤーがまったく違う話なのだ。

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『売上の地図』

 多くの社員が売上を作るために日々一生懸命仕事をしているのに、大企業になればなるほど、売れる要因・売れない要因は分かりにくくなります。これは、売上を構成する要因が複雑に絡み合っており、どの施策が効いてどの施策が効いていないのか、分からない状況が続いているためです。

 私がまとめた「売上の地図」では、20個(正確には効果測定を除く19個)の変数を取り上げています。これは、限られた資源(予算)の中で売上や利益を最大にする「再現可能な作戦」を立てるための道標となります。


売上の地図

いまはやりの「パーパス経営」で売上は増えるのか

 さて、企業のエグゼクティブである読者層(管理職・ミドル層)が気になる地図のひとつに「パーパス」があるのではないだろうか。では果たして「パーパス経営」で売上は増えるのだろうか?

 その質問に回答する前に、この問いについて考えてみてほしい。

  • 企業経営の「目的」とは何か?
  • 企業経営の「目標」とは何か?

 「売上高○○円を目指す」「営業利益○○円、営業利益率○○%を目指す」は、企業経営の「目標」であって「目的」ではない。では、企業経営の目的とは何だろうか。それがパーパスである。

パーパスは企業経営の「目的」

 パーパスは、「自社はなぜ社会に存在するのか」「自社が存在する社会的な意義は何か」という問いに対する答えであり、売上や利益、時価総額を上げる理由でもある。

 大企業の売上はさまざまな変数が影響するため、ものごとをシンプルに考えづらい。パーパスと売上の関係を理解するため、再度、町のベーカリーショップで考えてみよう。ここに「本格的でおいしいパンの提供を通して、地域の人々の生活を豊かにしたい」という思い(パーパス)で開店した店舗がある。では、このパーパスがあることで売上は増えるだろうか?

 そう、増えるか増えないかではなく、パーパスと売上はレイヤーがまったく違う話なのだ。ベーカリーショップが掲げているパーパスは、オーナーが店舗を営む目的であり、その目的達成のために日々おいしいパンの開発、丁寧な接客、清潔なお店づくりに精を出す。商売が繁盛するかどうかはこうした活動の結果であるため分からない。それでもスタッフ一同、本格的でおいしいパンの提供を通して地域の人々の生活を豊かにするため、今日もおいしいパンを焼き、清潔な店舗で丁寧な接客をする。結果、このお店はいつも繁盛している。

 一方、同地域の競合店は特にパーパスを持たず、売上の最大化と極大利潤の追求を志向していたとしよう。立地がよく、おいしいパンを手頃な価格で提供することで繁盛していたが、最近は味が落ちてきたとの声を聞く。どうやら、利益を最大化するために安価な素材を使い、安い人件費で社員を雇用して大量生産をしていたらしい。店内のPOPや値札は汚れたり剥がれ落ちたりしていて、清潔さも失われている。パンが売れ残るとすぐにタイムセールをするため、値崩れも起こっているようだ。スタッフの離職が相次ぎ、それがさらなる味やサービスの低下につながる負のスパイラルに陥っている。

 これがパーパスと売上の関係だ。パーパスを策定しただけでは売上は上がらない。しかし、持続可能な経営や、安定した利益の成長を実現するためにパーパスは効力を発揮するのである。

なぜ今、パーパスが注目されるのか

 パーパス経営は、2015年の国連サミットでのSDGs(持続可能な開発目標)採択が大きなきっかけとなり、全世界で注目されるようになった。その背景にはさまざまな異なる要素が関係している。

1、サステナビリティへの意識の高まり

 大量生産、大量消費が是とされてきた社会の規範や価値観が変わり、持続可能な成長を思考する消費者が増えている。「品質が良いから買う」「他の商品よりも安いから買う」という価値観は依然根強いが、「持続可能な社会に役立つ商品だから買う」という価値観が急速に広がっている。多くの消費者は商品や価格だけでなく、どのような思想や哲学で生産・提供がされている商品なのかを気にするようになった。

2、あらゆるモノやコトのコモディティ化

 「どの商品を買っても同じなら安い方を買う」というコモディティ化が進展し、あらゆる業界で激しい価格競争が起きている。その状況を打破するため、企業はフェアトレードなどによって差異化を図ろうとしている。

3、若年層を中心とした「働きがい」の変化

 日本でも欧米でも、ミレニアル世代やZ世代は他の世代と比べて社会問題への関心が強いといわれる。そんな彼・彼女らの仕事観は食べるための仕事ではなく、社会の役に立つ仕事、人から感謝される仕事、自分が成長できる仕事を求める。コロナ禍によるリモートワークの普及は、「自分は何のためにこの会社で働いているのか」という問いを突きつけた。リモートによる面接の気軽さなどもあり、いまや「25〜34歳の5人に1人が転職希望者」といわれるほど多くの企業で若年層の離職率上昇が課題となっている。

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