俳優・寺田農氏の「みのりのアル話」理想は町中華の親父!50歳になったら自己主張し過ぎず、悠々と急げ:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)
俳優の寺田農氏によるオンライン相談会「みのりのアル話」第二弾。参加者からの質問に寺田氏がざっくばらんに答えてくれた。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会。俳優の寺田農氏が登場し、オンラインで参加者と直接交流する「みのりアル相談」第二弾が行われた。この双方向の相談会では、60年のキャリアを持つ俳優であり、読書家、東海大学で文学部特任教授を務めたことでも知られる寺田氏が参加者から寄せられた質問に答えていく。ビジネスパーソンにとって気になる“発信力”について、没後30年となる松本清張について、気になる女性関係についてなど、さまざまな質問が寄せられた。
ビジネスパーソンにとっても必要な自己表現。うまく発信するコツは?
――舞台、映画、テレビ、ナレーション、声優などで活躍されている寺田さん、自分を表現するお仕事だと思います。サラリーマンも自分を表現する必要がありますが、なかなかうまくいきません。自己表現のコツがあれば教えてください。
寺田氏 今この年になると、あんまり自己表現はしない方がいいんじゃないかっていう気もするんです。今って、「聞いて聞いて」ってみんなが主張しすぎているんだよね。だから自分では、こうしたいとかあんまり発信しないようにしてるんですよ。逆に「言われたことは何でもやりますよ」みたいな、「注文があれば何でも作ります」って町中華の親父みたいなのがいいと思っているんだよね。自分が「これがうまいから食べてみろ!」っていうんじゃなくて、「ラーメンが食べたい? ならおいしいラーメンを提供しましょう」といった風に。
――確かに、最近は「一を知って十を言う」みたいな時代ですよね。僕も自分としては「十を知っていても一だけ言う」と抑えめにした方がいいのかなと感じます。歳をとったからかもしれませんが。
寺田氏 そうそう、歳をとるとね。若い人はもっと乱暴に自己主張をしてもいいのかもしれないけれど、50歳を過ぎたくらいから、自己表現を抑えた方が、人にも伝わりやすい感じがします。だから自己表現とかあまり気にしない方がいいし、悠々自適で静かな親父でいる方がいいんじゃないですかね。
口下手、引っ込み思案でも会議やプレゼンなどでうまく発言したい!
――発信力を高めるコツをご存じであれば教えていただきたいです。引っ込み思案、口下手、考え整理が下手で、会議などで発信したとしても、相手に意味が誤って伝わってしまうことがあります。
寺田氏 口下手な人って、口がうまい人より信頼できると感じます。引っ込み思案も、50歳を過ぎたらあまり気にせずに、ゆったりと構えていればいいんじゃないですか。整理下手っていうのも、話の内容なんか整理しなくていいと思う。ないものねだりというか、今あなたが言った悩んでいることは全てプラスポイントです。
昨年亡くなったはなしの柳家小三治師匠の話ですけど、彼の弟子の1人が、どうやってもはなしが暗い。何度も注意しても直らない。そこである時にね、小三治は気が付いたそうです。「無理に明るくしなくても、別に暗くてもいい。とことん暗くやれば彼の本質的なもの出てくるし、はなしも芸もうまくなる」ってね。
だから、自分が口下手だって思っていることも、それは自分の武器で魅力なんだと割り切ってしまえばいいのではないでしょうか。自分の本質と違うことに無理して挑戦しても、絶対うまくはならないから。だから、「口下手でいい」と堂々と自信を持っていれば、話はきちんと伝わりなす。自信がないとダメだけどね。堂々とした口下手、堂々とした引っ込み思案は、武器だと考えていればいいんですよ。
――自信を持って話せば、下手でも伝わるということですね。
寺田氏 堂々とね。でも、堂々と主張しすぎちゃうとダメなんだよね。自己主張はしすぎずに、でも悠々と自分らしく。僕なんかは、もう俳優としても何も主張しないのがいいと思ってるんですよ。芝居しすぎず、おじいさんだかおばあさんだかよく分からない感じでただそこにいるっていうのが理想ですね(笑)」
没後30年となる松本清張。寺田氏のおすすめ小説や映像作品は?
――今年は松本清張の没後30年ということで特集が組まれていたりします。寺田さんも松本清張作品にいくつか出演していますが、その中で思い出深い作品などがあれば教えてください。
寺田氏 僕は残念ながら松本清張さんにお会いしたことはないんですよ。ただ、いろいろな映像作品に出させていただいもらったし、さまざまな書籍も読んでいます。彼が1953年に芥川賞を受賞した『或る「小倉日記」伝』なんかは本当に面白いしね。『点と線』もすばらしいです。
映像化された作品では、1974年に野村芳太郎監督が製作した『砂の器』が大変印象的です。加藤剛さん、丹波哲郎さん、緒形拳さんなんかが出演しています。ハンセン病の話が出てくるんだけれど、実は原作ではその話は1ページにも満たないくらいです。その短いシーンが、映画では実に30分も、ドラマチックに描かれている。橋本忍さん、山田洋次さんの脚本もすごいし、野村芳太郎監督の演出もすごいよね。原作にそれだけの力があるんでしょう。
僕自身が出た作品でいうと、十和田湖を舞台にした短編小説を映像化した1996年のドラマ「白い闇」も心に残っています。十和田湖にただよう一面の白い霧が美しくて、映像的にも見どころがあります。僕は探偵みたいな役なんだけど、犯人の正体に気付くシーンで、原作だと「目がきらりと光った」と描かれているのを、映像でどう表現すればいいのか、監督たちと話しあって苦労した記憶があります。当時、松本清張作品を映像化する場合、改変がゆるされなかったからね。
松本清張のすごいところは、下山事件、松川事件、三鷹事件といった国鉄三大事件などの実際に起きた事件を追求したり、取り上げる題材がものすごく幅広いことですよね。それで、月に何本も連載を持って、手書きで何百枚も原稿を書いている。質・量ともに、今では考えられないくらいのすさまじい仕事ぶりですよ」
昔は女性を見る目がなかった? 今でも距離感がつかめない、女性との関係
――寺田さんにとっての女性との実りある関係とはどのようなものですか?
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