「レッドガス」時代の羅針盤【終章】攻めのデカップリング型グローバル経営モデルに向けて(1/2 ページ)
これまで4回にわたり、「レッドガス」時代における製造業・エネルギー企業の変革の必要性について論じてきた。しかしながら、これらの変革への対応を従来型の事業・マネジメント構造で実現することはほぼ不可能と考えたほうがよい。
「レッドガス」時代の羅針盤【序章】――産業財・エネルギー領域のパラダイムシフト
「レッドガス」時代の羅針盤【第一章】「色分け」されたエネルギーがもたらす事業機会
「レッドガス」時代の羅針盤【第二章】自国循環型モデルの高付加価値化
「レッドガス」時代の羅針盤【第三章】従来型グローバルサプライチェーン設計思想からの脱却
従来型マネジメント構造の限界
これまで4回にわたり、「レッドガス」時代における製造業・エネルギー企業の変革の必要性について論じてきた。しかしながら、これらの変革への対応を従来型の事業・マネジメント構造で実現することはほぼ不可能と考えたほうがよい。
従来は、無色透明な性能・機能を提供価値として創りこむべく、各製品別の最適解としてのサプライ/バリューチェーンを構成していた。そのサプライ/バリューチェーンの各要素を磨き上げていくことこそが経営・事業の役割であり、それを実現するための垂直統合型事業・マネジメント構造が確立されてきた。
しかし、脱炭素、人道問題など、これまでの性能・機能とは異なる軸で“色分け”がなされつつある中、その提供価値も多元化しつつあり、資源・素材・製品循環に向けた静脈バリューチェーンの形成および動脈・静脈を合わせたエコシステムの最適化も避けては通れない。加え、提供価値の“色”も、地政学的動向や技術進化によって大きく変化しうるため、常に動的な対応が求められる経営・事業環境への変貌を迫られている。
生産・調達コストの極小化や、売り切りを前提とした一方通行のバリューチェーン、モノ軸での効率性を極めた旧来型の経営・事業体制は、これら「レッドガス」時代の経営課題に対応することは想定されていない。昨今はDXを中心とした個別機会・課題を捉えたトランスフォーメーションが脚光を浴びていたが、「レッドガス」時代を迎えるにあたり、さらに一歩踏み込んだ経営モデルのトランスフォーメーションが必須ではなかろうか。
「レッドガス」時代のあるべき経営変革の要点
かかる環境下、“色”の変化に応じた機動力を有する「レッドガス」時代の経営・事業体制を実現するにあたっては、以下の3つを押さえていくことがカギとなる。
1、提供価値ד色”起点でのポートフォリオ改革
ポートフォリオという言葉の接頭辞は、これまで“事業”“製品”といった組織・モノを表すことが一般的であった。しかし、これからは“産業・社会課題”、 “ソリューション”、 “サステイナビリティ”といった提供価値に加え、それらが何色かという観点が極めて重要である。具体的には、元となる資源・製造工程における環境負荷、人道問題・地政学的リスク、経済環境激変の可能性といった色の視点を指す。
2、地政学・エネルギー情勢の変化を機敏に察知するモニタリング体制強化
日本企業の有事の際の判断スピードの遅さは、グローバル経済において致命的な欠陥と指摘され続けてきた。経営・事業に重大な影響を与えうる地政学的リスクや、エネルギー情勢を事前に察知し、迅速な経営判断を促す。また、これらの判断を迅速に営業・生産・調達計画へ反映させる。こうした察知と判断・実行の高速サイクルが、経営・事業の機動力を高めるためのエンジンとなる。
3、レッド化対応を迅速化させる経営・事業のモジュール化
モニタリングに基づく判断の迅速化を行動につなげるには、各機能・組織がレゴブロックのごとく組換え可能であることが必要要件となろう。経営判断に応じ、社内の各モジュールを組み替える。場合によっては外部から調達し、売却する。この柔軟性の担保こそが、実質的な経営・事業の機動力を決定づける。
提供価値ד色”へのポートフォリオ志向の転換により、次世代経営モデルの新たな「型」を創るとともに、変化を機敏に察知する「目」を養うことで、機能・組織という「武器」を自在に組換え、勝ち筋を見いだす。これこそが「レッドガス」時代に求められる思考の枠組み(パラダイム)ではなかろうか。
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