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発達障害の人が見ている世界を想像できれば職場でのコミュニケーションも変わってくるITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

職場で空気が読めなかったり、仕事ができないためにかったり早期離職したりする人が増えている。このような人は、発達障害なのだろうか。発達障害を持つ人の見ている世界を知ることで、お互いにもっと生きやすくなる。

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日本医療科学大学兼任教授/東京国際大学准教授 精神科医 岩瀬利郎氏

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、日本医療科学大学兼任教授/東京国際大学准教授で精神科医の岩瀬利郎氏が登場。「発達障害の人が見ている世界」をテーマとして講演で、最近、ニュースやSNSなどで見かけることが多くなった「発達障害」について理解し、ともに生きるのが楽しくなるヒントついて紹介した。

発達障害の問題は子どもだけでなく大人も同様


『発達障害の人が見ている世界』(Amazon)

 岩瀬氏は、「発達障害の問題は、子どもだけでなく、大人も同様です。以前は、発達障害や自閉症は子どもの病気で、大人の発達障害という認識はありませんでした。大人が発達障害と診断されるようになったのは10〜15年前です。スペクトラム診断により間口が広がり、かつては子どもの病気と思われていたが、大人にもあるということが分かってきました」と話す。

 それでは、発達障害は増えているのか。岩瀬氏は、「増えているのではなく、もともと身の回りにいて、生きづらさを抱えている人たちは一定数いました。昨今は発達障害と診断されたほうが、本人も、周囲も、救いがあると考えています」と話す。

 例えば、空気が読めない、仕事ができないなど、新入社員の早期離職が増えているが、その中には発達障害の人も含まれている。ネットで発達障害について検索し、自己診断する人の割合も爆発的に増えているが、それに対する医師の知識不足、経験不足により、対応できないことも増えている。

 「発達障害の人はモノの見方や考え方が独特です。相手の身になって考えることが苦手な傾向にあります。要するに空気が読めないことがあります。発達障害の人がどのようにこの世界を認知しているのか理解する必要があります。発達障害を持つ人の“見ている世界”を知ることで、お互いにもっと生きやすくなることが期待できます」(岩瀬氏)

発達障害の人とよりよくコミュニケーションするためのコツ

 一般的には発達障害という呼び方をされるが、現在は「神経発達症」と呼ぶ動きも出始めている。先天的な脳の機能的な問題と考えられており「特性」とも呼ばれる。発達障害の人たちが、どのような世界を見ているのか、認知のしかたを周囲の人たちが想像できるようになるだけで、結果的に職場における部下や同僚とのコミュニケーションも変わってくる。

 発達障害は、以前は自閉症、広汎性発達障害(PDD)、アスペルガー障害に分類されていたが、現在は自閉スペクトラム症(ASD)にまとめられている。スペクトラムは、簡単に言えば境界は明確でなく、虹のように色分けしたグラデーションの状態である。それとは別に、ADHD、限局性学習症(SLD)、チック症・トゥレット障害などもある。

 「発達障害は、精神疾患である、適応障害や、うつ病・双極性障害、不安障害、パーソナリティー障害など、二次的問題を抱えやすいことも特徴の1つ。精神疾患との合併もあるので、通常の診療においてもトピックになっています。また、虐待・ネグレクト、いじめ、複雑性PTSD、アタッチメント(愛着)課題など、発達特性の問題もあります。現在の問題と発達障害は密接に関わっています」(岩瀬氏)。

 ASDは、幼少期からの認知や高度面の特有な様式を有する発達障害の一形式で、英国の精神科医であるローナ・ウイングは、以下の3つの特徴を持つ「Wing の三つ組」を提唱している。

(1)社会性の障害

  • 人の中で浮いてしまうことが多い
  • 空気が読めない(読もうとしていない)
  • 場の雰囲気にそぐわない行動をする
  • 成長しても社会常識やマナーが身につきにくい
  • 友達ができない
  • 感情表現のタイミングがずれる

(2)コミュニケーションができない

  • 言葉のキャッチボールができない、相手を待たずに話す
  • 一方通行で好きなことだけ話し続ける
  • 会話がパターン化、ぎこちない
  • 例え話が分からない、字義通りにとる
  • 独特の言い回し、自作の言葉
  • ノンバーバルコミュニケーションができない

(3)想像力(イマジネーション)の障害

  • 融通が効かない
  • 興味の偏りが強い。それ以外のことは興味がない
  • 自分の決めた生活パターンを守りたがる
  • 想定外のことが起こるとパニックを起こす
  • 例外や間違いを許せない
  • 気持ちの切り替えが下手
  • 頭の中で予定を組み立てるのが苦手

ローナ・ウイングの三つ組には出てこないが、以下の特徴も重要になる。

(4)感覚過敏その他

  • 感覚の鋭敏さ、鈍感さ
  • 選択的注意ができない(騒音の中では声を聞き分けられない)
  • 人の顔や名前が覚えられない、表情を読み取れない、アイコンタクトできない
  • 木を見て森を見ずの状態(細部にこだわって全体を見られない)
  • マルチタスクができない(並列処理が苦手)

 岩瀬氏は、「診断に必要なのは、(1)〜(4)の特性が子どものころから存在していることです。思春期以降にこのような特性が現れた場合は、別の診断の可能性もあります」と話している。

ADHDは治療薬もあるので医療機関での診断も有効

 実際にどのような診断をするかということだが、「サリーとアン課題」が有名である。サリーとアン課題は、心の理論ともいわれ、他人の心の動きを推し量ることができるか、できないかを判断するテストである。自閉スペクトラム症があると、サリーとアン課題の失敗が多いと言われている。


実際の診断では「サリーとアン課題」が有名

 それでは、どんな人が相談に来るのかといえば、以下の通りである。

(1)大学生

 高校までは決まったレールに乗っていれば大丈夫だったが、大学に入ると友人関係や教員との関係も能動性が必要とされる。

(2)新社会人

 ほうれんそうスキル、チーム作業、強調性が必要になる。業務の進行、スピード重視。高機能の人ほど困り感が強い。幼少から大学までは優秀だったのに、使えない社会人という現実を受け入れられない。

 また社会・産業構造の変化もある。例えば、IT化、グローバル化に基づく効率重視・スピード重視の風潮や終身雇用制度の崩壊、非正規化の加速、ほうれんそうスキルの重視など。ジェネラリストとしての雇用が主体で、スペシャリストは敬遠される企業が多く、新卒一括採用で同調圧力が強いことも挙げられる。

 岩瀬氏は、「発達障害とは、発達の違いであり、ゆっくりでも発達はできることを理解してほしいと思っています。また発達の凸凹であり、特性に合った環境、現場を用意することが必要です」と話す。

 ADHDは、前頭前野の機能不全で、実行機能障害や報酬系機能障害などの症状がある。基本症状として。以下の3つがある。

(1)不注意(集中困難)

  • 興味があることには没頭しても、勉強など気が乗らないことはまったく集中できない
  • ケアレスミスや忘れ物、無くし物が非常に多い
  • 予定や約束をすぐ忘れる
  • 何かに気をとられると用事を忘れる
  • 物事を順序立てることが苦手で計画、整理整頓、片づけ、時間管理ができない

(2)多動性

  • 落ち着きがない
  • 活発に動き回る、じっと座っていられない、手足や体を動かす
  • おしゃべり、高い所に上りたがる

(3)衝動性

  • 順番が待てない。
  • 相手の話が終わる前に話し始める。他人の話に口を挟む
  • 車を確認せず車道に飛び出す

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