製造業「+4D経営」のすすめ――製造業DXの重点領域と要諦(1/2 ページ)
デジタル、ダイバーシティ、脱炭素これら3つのキーワードは今後も製造業の戦略骨子であるだろうが、そろそろ新たなパラダイムを打ち立てて、製造業の未来を考えるべき時期に来ているのではないだろうか。
製造業の次なる戦略仮説
ここ数年、日本を問わず、世界的な製造業プレイヤーの成長戦略・中期経営計画では、デジタル(DX)、ダイバーシティ、脱炭素ばかりがホットなテーマであった。時代の趨勢を考えれば、至極、真っ当な打ち手であり、今後も、重要であることに変わりはない。ただ、競争戦略の観点で考えると、皆が同じ方向に向かえば、実現プロセスの巧拙を除けば、レッドオーシャン化の懸念は否定しづらい。
実際、脱炭素に資する再生可能エネルギー領域は、既に経済計算が成り立たないような投資・M&Aが散見されるようになってきた。過熱した状況では、本来、地球温暖化を抑制するための社会的意義ある戦略・取り組みであったはずが、気付かぬうちにステークホルダーの批判回避が目的化するといった本末転倒なことも起きかねない。
もちろん、これら3つのキーワードは今後も製造業の戦略骨子であり続けるべきと考えるも、そろそろ新たなパラダイムを打ち立てて、さらに明るい製造業の未来を考えるべき時期に来ているのではないか。
そこで、普遍的に重要な3つのDに加えて、企業競争力・収益力を左右させる4つのDを加えた「+4D経営」を、今後の製造業の戦略仮説・潮流として提案したい。
「+4D経営」の構成要素
「+4D」の個別について、その必要性とわが国製造業の取組意義について考察を加えていく。
1、デカップリング
ウクライナ侵攻により、冷戦終結後、長らく続いてきた平和な時代を前提としたグローバルサプライチェーン最適化という概念は通用しづらくなった。台湾危機の懸念が高まるなか、わが国企業も、欧州企業が直面したように、サプライチェーンの分断、原材料の調達リスクに備えるべきタイミングが到来しつつある。
すなわち、グローバルが密接に絡んだサプライチェーン構造から、地政学的なリスクの高まりに伴い分断せざるを得なくなっても、即座に調達・販売網を組み換え、有事が発生した国は自律的に事業運営可能な柔軟性の高いサプライチェーン構造へのシフトが求められる。このようなデカップリング型の構造の肝を握るのは、常時、サプライチェーン全体がどのような状態になっているかを把握でき、切り替えを柔軟に行え、かつ切り替えを行ったときの効果と異常を即座に検知できる状態に整えておくことだ。
これは、デジタルツールを最大限活用しなければ実現しえない。デジタルはあくまでも手段に過ぎず、ステークホルダーとの関係性あって成立し得る事項だが、わが国製造業は、世界的に見ても、企業城下町という言葉が存在するように分業に長けている。阿吽の呼吸で擦り合わせを行ってきたオペレーションを、デジタルで再現し、可視化・運用できた企業が、デカップリング型サプライチェーン時代に成功を収めることとなろう。
2、デザイン・フォーカス
中韓メーカーが力を付け、日本の製造業は品質・機能で優位に立っていると断言できる領域は年々狭まってきた。すでに幻想に近い状況にまで陥っているのかもしれない。モノの差別化が困難であるからこそ、コト売りへシフトすべきという風潮は近年強まったが、世界的なインフレ環境下で、その効力は徐々に低下していく可能性がある。
むしろ、モノの品質・機能の良さから、デザインに価値の源泉を移していくほうが筋の良い戦略ベクトルと捉えている。意外に思われるかもしれないが、日本のデザイン力は世界的に見ても評価されており、世界デザインランキングでは、世界3位のポジションにある。また、日本デザイン振興会の調査によると、デザイン経営に積極的な日本企業は、売上成長でも、自社のコアファンづくりでも、優位なことが実証されている。
デザインというと、とかく自社はセンスあるデザイナーがいないといった声もよく聞かれるが、アップルの創業者スティーブジョブスは「デザインは見た目ではなく、どう機能するかが本質だ」といった趣旨のコメントをしている。
要は、デザインを製造業経営の重要アジェンダとして捉え、モノだけでなく、コトに資するソフトウェア・サービスも含めて、本質的な機能とその組合せを入念に設計することを、開発部門の中核ミッションに据えるべきではないだろうか。
3、ダイレクト・トゥ・ユーザー(D2U)
最終ユーザーと直接つながって得られる効用は極めて大きい。もちろん、コストが掛かる要素ではあるが、デジタル技術の進展に伴い、その実現難度は極めて低くなっており、自社のブランディングでも、製品開発サイクルでも、アフター収益の獲得でも、中間マージン削減でも、かなりの多面的な利が得られる。
しかしながら、製造業企業から、やりたくてもなかなか出来ていないという声をよく聞く。古くから付き合いのある販路を無下にできない、エンドユーザーとのコミュニケーションをどうすべきか分からない、仕組みを用意したが使ってもらえないなど、理由はさまざまだ。他方、BMWなど欧州高級車メーカーは、ディーラーを介さずにWEB上でユーザーに直販するビジネスモデルへの転換を発表するなど、待ったなしの状況が近づいてきている。
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