日本製鉄や積水ハウスが米国企業の巨額買収に動くなど、日本企業の対米投資が拡大している。M&A(企業の合併・買収)助言会社のレコフ(東京)によると、2023年に発表された日本企業による米企業のM&Aの件数は前年比で約2割増、金額は約3倍に膨らんだ。人口増加や株高などで堅調な消費が続く成長市場に活路を求める。国内に投資を呼び込む米国の政策に対応する必要性にも迫られている。
日鉄のUSスチール買収が押し上げ
23年の日本企業による米企業へのM&Aは222件、金額は5兆3478億円だった。
買収額を押し上げたのは、12月に米鉄鋼大手の名門、USスチールを約141億ドル(約2兆円)で買収すると発表した日鉄だ。決断の背景には「先進国では最も大きな市場で、これからさらに成長が見込める」(橋本英二社長)との認識がある。
バイデン米政権が北米生産などを条件とする電気自動車(EV)の購入優遇策を導入したことを受け、鉄鋼メーカーの主要顧客の自動車各社がこぞって米国でEV生産の大型投資に動いており、買収によりEV向けの高級鋼板や電磁鋼板の需要を取り込む狙いだ。
カゴメはトマト加工大手を買収
消費関連のM&Aも目立つ。資生堂は12月、高級スキンケア化粧品「ドクターデニスグロススキンケア」を展開する米DDGスキンケアホールディングスを4億5千万ドルで買収すると発表。今年に入っても積水ハウスが米住宅会社MDCホールディングスを約49億ドルで、カゴメが米トマト加工大手のインゴマーパッキングを2億4300万ドルで、それぞれ買収すると決めた。
積水ハウスは今回の買収が完了すると米国内の住宅引き渡し数が年間約1万5千戸と全米5位になる。仲井嘉浩社長は「良質な、安全な住宅を多く供給できるビルダーになれる」と、旺盛な米住宅需要の獲得に自信を示す。
労組は反対……政治的リスクも
人口減少で需要が縮む日本から、安定した成長が続く米国への投資は今後も拡大が見込まれるが、企業買収が常に歓迎されるとは限らない。
日鉄によるUSスチール買収には全米鉄鋼労働組合(USW)が反対し、11月の大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領が「即座に阻止する」と発言するなど米国内で政治問題化。大和総研の鈴木裕主席研究員は「日本にとって同盟国である米国での投資には政治的リスクは少ないとされていたが、そうではないことが示された」と指摘する。
自民党の甘利明前幹事長は11日のフジテレビの番組で、民間企業同士のM&Aであることを強調。政治家の“介入”に対して「引いた方がいい」と、米国内での動きをけん制した。(宇野貴文)
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