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スマホで眼科受診・転んでも骨折しない床……IT技術で高齢者サポート 「エイジテック」が急速拡大

最新のテクノロジーを駆使し、高齢者の健康や生活の改善をサポートする商品やサービスが相次いでいる。「エイジテック」と呼ばれ、金融サービスとITを組み合わせた「フィンテック」に続く技術トレンドとして注目される。

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産経新聞

 最新のテクノロジーを駆使し、高齢者の健康や生活の改善をサポートする商品やサービスが相次いでいる。「エイジテック」と呼ばれ、金融サービスとITを組み合わせた「フィンテック」に続く技術トレンドとして注目される。「100歳時代」という新たな局面で、高齢者の直面する課題は幅広い。市場も大きく、企業は高齢者の困りごと解決のために知恵を絞っている。


「スマートアイカメラ」はスマートフォンが特殊な顕微鏡の代わりになる=東京都新宿区(中村智隆撮影)

世界の失明を半分に

 加齢で発症リスクが高まる白内障。世界で最大の失明原因となっている。「世界の失明を50%減らしたい」。そんな思いで慶応大学発のベンチャー企業「OUI Inc.」(東京)が開発したのが、スマートフォンに簡単に装着できるレンズがついた医療機器「スマートアイカメラ」だ。

 スマホの光を目の中が観察できる光に変換し、カメラで目の状態を診断できるようにする。スマホが特殊な顕微鏡の代わりになり、白内障のほか、結膜炎やドライアイなどを簡単に診断できる。歩行が不自由など、眼科受診が難しい患者のところに出向いて診察することが可能になる。

 スマホで撮った画像を遠方の専門医に送って診断してもらえるため、本格的な眼科診療ができない離島でも活用されている。診断がつかずに本土に受診に行くようなケースが減り、好評だという。

 令和元年に国内で医療機器登録され、診療所やクリニックなど約100カ所で導入が進む。欧州やブラジルなど、海外でも医療機器に登録されている。これからは人工知能(AI)による診断補助の技術開発などにも注力する方針で、清水映輔代表は「世界中で当たり前に使われるようになれば」と意気込む。

転倒時だけ柔らかく

 高齢者の転倒による骨折に着目したのは浜松市のスタートアップ企業「Magic Shields(マジックシールズ)」だ。独自開発した床材「ころやわ」は、転倒して衝撃が加わった瞬間だけたわんで骨折リスクを減らす。普段は硬く、歩いたり車いすを使ったりしやすいという不思議な素材だ。

 特許技術による「可変剛性構造体」を使い、厚さ約1センチで優れた衝撃吸収力を実現した。立った状態から転んだときに大腿(だいたい)骨にかかる荷重は、一般的なフローリングに比べ半分以下。広島県内の病院で実施した1年4カ月の実証実験で、骨折した患者はなかったという。

 すでに560以上の医療機関や介護施設の病室などで採用されている。3月からは個人向けのレンタルサービスも開始した。1平方メートルの通常価格は3万円だが、レンタルだと月700円とお手ごろだ。面積が大きい場合などは有料の設置サービスがある。

 レンタルサービスの申し込みは好調だという。杉浦太紀取締役は「今後はセンサーを内蔵し、利用者の動きを把握するなどして改良につなげたい」と話す。

エイジテックの走り

 新興企業に対し、エイジテックの先駆けともいえるのが大手自動車メーカーのスズキだ。高齢社会の到来を見据え、昭和60年から簡単な操作で歩行者並みの速度で歩道を走行できる電動車両「セニアカー」を販売している。

 徒歩や自転車での外出が難しい高齢者の買い物などでの移動を想定し、運転免許なしで乗車できる。昨年12月には障害物に近づくと自動で減速する機能を追加するなど、常に最新技術を導入して安全性の向上を図っている。価格は41万8千円で、自宅近くでの無料の出張試乗サービスもある。

 日本で発展する高齢者のための技術。エイジテックの発掘や活用に向けて企業の表彰などの活動を展開する「ウェルエイジング経済フォーラム」を創設した佐藤ゆみ代表理事は、「世界一の超高齢国家の日本は課題も先進国。その解決は世界の課題解決につながる。日本企業は失敗を恐れず開発を進めてほしい」と、世界への広がりにも期待している。(中村智隆)

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