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生成AI 企業・自治体で活用広がる どうする人材・ノウハウ不足

業務効率化へ向け、大企業や自治体で生成人工知能(AI)の活用が広がっている。

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産経新聞

 業務効率化へ向け、大企業や自治体で生成人工知能(AI)の活用が広がっている。大和証券はチャットGPTの導入によって全社員で年間計8万時間を効率化。パナソニックホールディングス(HD)は、生成AIの基盤技術となる大規模言語モデル(LLM)を社内専用に構築し、自社技術の伝承にいかす。ITの活用で後れを取っている日本にとって生成AIは巻き返しを図るチャンス。ただ、人材やノウハウ不足から導入に及び腰の企業もいまだ多く、手本となる先例を増やすことが重要だ。

 大和証券は昨年4月、約9千人の全社員向けにチャットGPTを導入した。海外企業の決算発表は日本時間の深夜になる場合があり、朝一番で顧客に内容を伝えるため、大急ぎで読み込んで分析することも珍しくない。

 デジタル推進部の清水克哉氏は「最初にチャットGPTで要約することで、情報の処理が速くなる。社員同士で活用方法の意見交換ができる仕組みの導入や解説動画などが利用促進につながった」と話す。

 今では独自にチャットGPTの機能を利用するアプリを開発して社内で公開する社員も複数いる。通常のチャットGPTとアプリ経由を合わせた1日の利用回数は計1万件以上になる。

 パナソニックHDは7月、AI開発のストックマーク(東京都港区)と協業し、大量の社内データを学習させた自社専用のLLMを構築すると発表した。秋ごろの運用開始を目指す。

 日本では高齢化や人手不足によって、ベテラン社員の技術やノウハウをいかに継承するかが課題となっているが、自社専用であれば公に公開できないデータもインプットできる。

 パナソニックHDデジタル・AI技術センターの九津見洋所長は「モーションキャプチャー(人やモノの動きをデジタルデータにする技術)やインタビューなどを組み合わせてベテランの技術を学習させ、若手が必要なときに情報を引き出すことができるようになる」と期待を込める。

 大企業が業務に生成AIを取り入れる一方で、中堅・中小企業では活用が進んでいない。帝国データバンクが6〜7月にかけ中堅・中小企業を中心に4705社を対象として実施した調査によると、生成AIを活用している企業はわずか17.3%にとどまった。事業規模の小さい企業を中心に活用の割合が低く、「どのように活用できるか分からない」などの声があったという。

 自治体は活用に差がある。山形市は通信アプリLINE(ライン)を通して、生成AIと専門スタッフが並行して「ハイブリッド形式」で24時間、市民の悩み相談を受け付ける「つながりよりそいチャット」の運用を7月から本格的に始めた。人には話しづらいこともAIになら相談できる側面もあり、孤独や孤立の悩みを抱える人の支援が狙いだ。

 一方、香川県三豊市ではチャットGPTを利用したごみ出し案内の導入を断念した。実証実験の結果、問い合わせなどへの正答率が94.1%で目標とした99%に届かなかったことが理由だ。

 日本総合研究所の白髭龍シニアコンサルタントは「(業務効率化のため)企業や自治体にとって生成AIを活用しない選択肢はない。割り切って使っていくという姿勢も必要だ」と話した。(桑島浩任)

生成AIのリスキリング(学び直し)需要高まる

 生成AIの導入を考える企業が増える中で課題となるのが、使いこなせる社員をいかに増やすかだ。

 そうした社会人のリスキリング(学び直し)需要を受け、サイバーエージェントは5月、企業向けに生成AIリスキリングや、生成AIの活用戦略から開発まで行うコンサルティングの提供を始めた。7月からは営業や人事、エンジニアなど職業別カリキュラムも開始。同社の社内研修が元になっており、受講者の生成AI活用率が倍以上になるなどの効果があった。

 サービス提供を担う子会社AI Shift(東京都渋谷区)で生成AIリスキリング責任者を務める伊藤優氏は「生成AIが社会人の必須スキルとなるかの分水嶺(ぶんすいれい)にさしかかっているのではないか」と指摘する。

 パーソルイノベーション(同港区)が661人を対象に実施したアンケートによると、所属する企業で生成AIを活用するにはリスキリングが不可欠だと回答した人は49.4%。多くの社会人が生成AIを扱うスキルの重要性を感じ始めていることが分かる。

 社会人向けのビジネススクールなどを運営するグロービス(同千代田区)では、定額制動画学習サービスの中で生成AI関連のコンテンツを提供。基礎的なチャットGPTの使い方からデジタルマーケティングでの活用方法などを学ぶことができる。担当者は「生成AIを扱うスキルを身に着けようとする社会人が増えている」と話す。

 アドビ(同品川区)は5月、大阪市で同社の生成AIを使ってイラストなどを作成するワークショップを開催。クリエイティブスキルを学びたいという社会人が増えているという。

社員同士の意識差埋めるのが課題 関西学院大 鈴木謙介教授

 生成AIの活用が広がっているが、かつてパソコンが登場したときのように扱えることが社会人にとって必須となるかは五分五分だと思う。パソコンは既存の業務をデジタルへと置きかえていくものだったが、生成AIは既存の業務を補助する形で使われているからだ。

 現状では効率化にはなっても、ないと仕事にならないわけではない。業績に大きな差をつけるほどのものではないだろう。

 ただ、これまで日本企業が苦戦していた基幹システムの改修が必要となるIT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)と違い、チャットGPTなどの外部サービスを利用して始められるので、生成AI導入のハードルは低い。うまく使えば生産性の向上にもなる。

 問題は同じ企業の社員であっても、生成AIを活用する意識やスキルに差があることだ。生成AIはあくまでツールなので、働く側が主体的に使うことが重要。ただ導入するのではなく、社員のスキルや意識の差をどう埋めていくかを経営陣が考える必要がある。(聞き手 桑島浩任)

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