実物と遜色なし……国宝「風神雷神図屏風」を42億画素で忠実再現するキヤノンの技術力
俵屋宗達や尾形光琳らの風絵など日本美術の傑作を一堂に集めた展示会が岡山シティミュージアムで開催されている。
俵屋宗達や尾形光琳らの屏風絵など日本美術の傑作を一堂に集めた展示会が岡山シティミュージアム(岡山市北区)で開催されている。その名も「一度は見たい 国宝・名宝!?展 〜高精細複製品で実現 キセキの名品選〜」。そこで展示されているのは実物ではなく、高精細な複製品(レプリカ)だ。同館の小林健人学芸員は「文化財の保存と活用・展示の両立は難しい。極めて再現度の高い複製品を活用し、実物に近い鑑賞体験や複製品ならではの展示方法や魅力を感じてほしい」と話している。
作品を“体感”
会場には、琳派の始祖とされる江戸時代初期の画家の俵屋宗達や、琳派の名称の由来になっている尾形光琳、「奇想の絵師」と称されることもある伊藤若冲ら名だたる絵師の屏風絵や襖絵、掛け軸など15点が並ぶ。
実はこれらはすべて実物を忠実に再現した高精細の複製品。文化財の複製を作り、保存する活動を行っているNPO法人「京都文化協会」とキヤノンが共同で取り組む社会貢献活動「綴(つづり)プロジェクト」で培った技術を用いて制作されたものだ。
複製品ならではの展示も見どころで、有名な宗達の「風神雷神図屏風」(京都・建仁寺所蔵)は20分に1度、キヤノンが制作したプロジェクションマッピングが流れる。「風で種子が大地にまかれ、慈雨で作物が育つことから、五穀豊穣(ほうじょう)を願って描かれたとされる」(小林学芸員)ことにちなみ、展示壁面全体に風が吹き荒れ、雷が鳴り稲が実る映像が映される。
長谷川等伯の「松林図屏風」(東京国立博物館所蔵)のプロジェクションマッピングでは屏風の中に鳥が飛んだり、月が出たりする演出も。どの展示品にもそれぞれのイメージを体感できる仕掛けが施されている。
「門外不出」も
宗達の「雲龍図屏風」や光琳の「群鶴図屏風」(いずれも米スミソニアン国立アジア美術館所蔵)など海外の博物館、美術館が所蔵する“門外不出”の作品を、わざわざ現地に足を運ばなくても見ることができたり、一堂に集めて展示したりすることができるのも複製品ならではのメリットだ。
木や紙でできている日本の美術品は傷みやすいため、国宝の「松林図屏風」や狩野永徳・常信の「唐獅子図屏風」(皇居三の丸尚蔵館所蔵)などの貴重な文化財は公開期間が限られている。それらは温度や湿度を管理するためガラスケースに入り、照明を暗くした状態での展示となるが、複製品なら間近で鑑賞したり、写真を撮影したりできる。
キヤノン社会文化支援課の鍛治屋友美さんは「より多くの人が場所や時間、展示方法に制約を受けることなく作品を鑑賞できる、日本の文化に触れる機会を増やすのが目的だ」と説明する。
会場を訪れた岡山県内の男性は「複製品だと分かっていても、迫力があり、ディテールがすごくリアル」と驚いていた。
技術×匠の技
「綴プロジェクト」は平成19年に始まり、先進のイメージング技術と京都の伝統工芸の職人技を融合させ、これまでに61点を生み出してきた。サイズが大きい屏風や襖絵は原寸大で制作し、作品への負荷を最小限に抑えながら忠実に再現。小林学芸員は「見た目は遜色ない」と太鼓判を押す。
4500万画素の高解像度ミラーレスカメラや望遠レンズ、ストロボ、旋回台を用いて自動分割撮影システムを構築。定点からカメラの向きを上下左右に振り、ストロボの使い方を変えて1カ所で3通りの撮影を行う。
宗達の「風神雷神図屏風」の場合、全体を168分割し、42億画素の高精細データを取得。独自開発のカラーマッチングシステムで自動で色調整を行い、大判プリンターで専用の和紙や絹本に印刷する。さらに、職人が金箔(きんぱく)や金泥、雲母を施し、表具師が表装を行う。
活用方法として、かつてあったとされる場所での展示やデジタルコンテンツと組み合わせた体験型展示、子供たちを対象にした体験学習などが挙げられる。鍛治屋さんは「地方での展覧会を増やすとともに、皆さんに興味関心をより持っていただけるような展示や発信の仕方を検討していきたい」と意気込んでいる。
岡山シティミュージアムでの展覧会は10月20日まで。(和田基宏)
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