小規模な高級ホテルが裕福な旅行者の新たな受け皿として注目されている。「スモールラグジュアリーホテル」と呼ばれ、特別な滞在や体験を求める層に対して個性的できめ細かなもてなしを提供するのが特長だ。同水準の設備やサービスでも大型ホテルより客室が少ない分、開発にかかる初期投資を抑えられ、高単価が狙えることから参入が増えている。
訪日客でにぎわう京都市東山区に今年、客室が100室以下の小規模高級ホテルが相次いで誕生した。英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)の「シックスセンシズ京都」(81室)と、シンガポールのバンヤンツリー・ホールディングスが手がける「バンヤンツリー・東山 京都」(52室)だ。
「どこへ行っても同じ宿という画一化されたデザインは富裕層に飽きられている」。両ホテルの開発などを担ったウェルス・マネジメント(東京)の千野和俊社長は、スモールラグジュアリーホテルが注目される理由をこう分析する。
背景には「その土地の伝統や文化を感じられる個性的な宿への強いニーズがある」とされ、伝統建築を改修したスモールラグジュアリーホテルも多い。
同区で2019年に開業した「そわか」は、築100年の歴史を持つ数寄屋造りの老舗料亭を日本の建築美を味わえる宿に再生した。宿泊代は1泊1室10万〜40万円程度と高額だが、「一人一人にきめ細かなもてなしができる」と山野友紀副総支配人は胸を張る。人手不足の昨今、大型ホテルでは全ての客の要望や好みに応えることは難しくなっているからだ。
京都以外でもスモールラグジュアリーホテルの開業が目立つ。温故知新(東京)は今年1月、大阪・南船場にシャンパンの生産者と企画した客室わずか11のホテルを出した。松山知樹社長は「プライベートな空間が味わえ、富裕層が求める1棟丸ごと貸し切りの需要にも応えやすい」と話す。建築コストが高騰する中、土地が少ない都心部でも開発のハードルを下げることができるため、「大型ホテル開発のような資本力がいらない分、参入が容易だ」とする。
大型ホテルや大手チェーンからの進出もある。帝国ホテルは東京の旗艦ホテル隣接地で29年度に完成する建物高層部に100室規模のホテルを計画する。
米ヒルトンは「そわか」など世界570軒超のホテルが加盟する「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド」(SLH)と提携。自社公式サイトを通じてSLH加盟施設が予約できる態勢を敷き、多様化するニーズへの対応強化を狙う。
スモールラグジュアリーホテルの活況について、ホテルジャーナリストの井村日登美氏は「外資勢が五つ星に位置づける大型ホテルを日本で増やしていることへの対抗姿勢の表れでもある」と説明。その上で「世界の旅行者のうち上位3%のハイエンドトラベラー(富裕旅行者)を満足させるには本物のもてなしができるスタッフが欠かせず、参入障壁は低い半面、高度人材をどう獲得できるかが生き残りのカギになるだろう」と指摘している。(田村慶子)
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