パワー半導体の合従連衡、デンソーが軸に 欧米勢だけでなく、中国勢も投資を強化
次世代品は中国勢も投資を強化しており、1社の規模が小さい国内勢が競争力を維持するには協業による生産能力の拡大を急ぐ必要がありそうだ。
電力制御に用いるパワー半導体の国内勢の合従連衡は自動車部品大手、デンソーが軸になりつつある。大規模な投資を行う欧米勢に対抗するため、経済産業省も補助金に条件を付け、再編を促しており、デンソーが他社との協業に相次いで乗り出している。次世代品は中国勢も投資を強化しており、1社の規模が小さい国内勢が競争力を維持するには協業による生産能力の拡大を急ぐ必要がありそうだ。
富士電機、ロームと相次いで協業
デンソーと富士電機は省エネ効率が高い炭化ケイ素(SiC)を材料に使った次世代のパワー半導体の生産で協業する。両社は生産設備などに計2116億円を投じ、経産省も最大705億円を助成する。
デンソーは愛知県幸田町と三重県いなべ市の工場の設備を拡充し、SiCを使ったウエハー(基板)を生産。富士電機は長野県松本市の工場に集約し、SiCの基板を使ったパワー半導体を量産する。
SiCを使ったパワー半導体は省エネ性能が高く、電気自動車(EV)や生成人工知能(AI)の普及で建設が相次ぐデータセンター向けで需要が拡大している。EVに使うと従来のシリコン製よりも航続距離を延ばせるという。EV需要は鈍化傾向にあるが、将来的に市場拡大が見込まれており、成長性の高い半導体として期待されている。
デンソーは9月に半導体・電子部品のロームとも戦略的協業を発表。ロームの一部株式を取得する方針を明らかにした。他社との協業の狙いについて「電動化や自動運転など次世代車を見据えた開発促進や安定調達が目的」(デンソー)としている。
再編を促す経産省
昨年に経産省はパワー半導体の設備投資に補助金を出す制度を始め、2千億円以上の投資を条件とした。1社での投資を難しくすることで再編を促す狙いがあった。その結果、東芝と半導体・電子部品のロームの協業につながり、約1300億円を支援した。
デンソーと富士電機の協業が2例目となるが、武藤容治経産相は「生産拠点を集約することでシェア上位の欧米企業並みの供給能力の確保を目指す内容」と説明する。
英調査会社のオムディアによると、2023年のパワー半導体の世界シェアは首位の独インフィニオン・テクノロジーズをはじめ、欧米勢が1〜3位を占める。4位の三菱電機、5位の富士電機、8位のローム、9位の東芝など国内勢を足しても首位のインフィニオンのシェアには届かない。
インフィニオンは1兆円以上を投資し、盤石な生産体制を築こうとしている。さらにEVの生産・販売に力を入れる中国勢の足音も聞こえているという。
オムディアの杉山和弘コンサルティングディレクターは「まだランキングには出ていないが、政府の後押しもあり、中国メーカーがSiC向けの投資を強化している」と話す。杉山氏は「国内勢はスピード感を持って、生産規模を拡大しないと中国勢に負ける可能性もある」と指摘する。
それぞれ強み、再編が前進しにくく
パワー半導体は素材の違いや単機能、複数機能などさまざまな種類がある。用途も異なり、国内勢はそれぞれに強みがある。経産省は補助金を通じて協業を促すが、お互いに利害関係があるため、再編が前進しにくいという事情もある。
ロームは3月に東芝との半導体事業の業務提携に向けた協議の提案を公表。資本提携も視野に入れるが、交渉に時間を要している。
国内勢の再編について、半導体メーカーの関係者は「生産面の協業はしやすいが、それぞれ社風や強みがあり、その先の技術開発や資本提携まで発展させるのは難しい」と明かす。
中国勢も追い上げる中、デンソーを軸とした国内勢の合従連衡がどこまで進展するのか、今後の行方が注目される。(黄金崎元)
copyright (c) Sankei Digital All rights reserved.