DX推進で自動車業界・整備業界のプラットフォーマーを目指す――オートバックスデジタルイニシアチブ 則末修男社長:デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)
オートバックスグループの情報機能子会社としてその運営を支える基幹システムの構築、運用、保守サポートを統括するABDiは、オートバックスの枠を超え、自動車産業・整備業界のDXを牽引し、そのプラットフォーマーになることも視野に入れている。同社のDXの取り組みについて、ITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
オートバックスデジタルイニシアチブ(ABDi)では、「どんなことにも挑戦し、新たな可能性を追求し続けること」という会社設立当初からのDNAに基づき、オートバックスセブンやフランチャイズチェーン(FC)の運営を支えるシステムの企画、開発、運用/保守、およびハードウエア/ソフトウエア販売を主な事業とし、業務改善のためのITサービスや、業務改革、労働生産性の向上のためのDX施策、およびソリューションを展開している。
大変革期を迎えている自動車産業において、これまで以上に先進的な技術を採用し、今や世界中の顧客とより深くつながり続けるDX率先企業への進化を目指すABDi。オートバックスグループ、ビジネスパートナー企業とともに、親会社オートバックスセブンのパーパスである「社会の交通の安全とお客様の豊かな人生の実現」に向けて、同社がどのような取り組みを行ってきたのか、そしてこれからの展望についても代表取締役社長の則末修男氏に話を聞いた。
これからのITと経営は一体感を持って戦略的に進めることが必要
ABDiの前身は2002年設立のバックスウイングシステムにまで遡る。オートバックスセブンのIT部門強化が設立の目的だったが、その歴史はITベンダーとの合弁と100%子会社を短期間で行き来することに。当初はその名が示すとおり、オートバックスセブンの情報システム部門と翼システム(現ウイングアーク1st)の合弁会社だったが、2006年4月には提携を解消、オートバックスセブンの100%子会社とし、オートバックスシステムソリューションに社名も変更した。しかし、2009年10月に今度は富士通の資本参加により、ABシステムソリューション(ABSS)となるも、2023年4月にはこの提携も解消し、再びオートバックスセブンの100%子会社となり、ABDiが誕生した。
則末氏は、「2009年ごろは、戦略アウトソーシングの一環として大手ITベンダーがさまざまな企業の情報システム部門を買収して子会社を設立するという潮流がありました。しかし、弊害も多く、実際、オートバックスセブン本体にIT・DX戦略担当部門があり、さらにIT戦略部門、DX戦略部門があり、そこからABSSにシステム開発を委託するという3階層の組織構造のため、効率的とは言い難い状況でした。そこでIT・DX戦略担当部門、IT戦略部門、DX戦略部門とABSSを統合し、グループのIT・DX推進を担う機能子会社として再編、スピード感を持ってビジネス環境の変化に対応していくことをミッションとするABDiが設立されました」と当時を振り返る。
ABDiの最大の特長は、オートバックスセブンの代表取締役社長である堀井勇吾氏が、ABDiの代表取締役会長を兼務していることだ。グループのトップが子会社の会長を務めている企業はオートバックスグループで唯一という。またABDiの会社ロゴにオートバックスのマークが使われていることにも同社の位置付けがよく表れている。
「これからはITと経営は一体感を持って戦略的に進めることが必要という会社の意志の表れであり、DXによる業務改革や労働生産性の向上、推進力強化、グループのIT基盤構築に関わる領域強化、およびITコスト最適化などを進めているのがABDiです」(則末氏)
安全・安心な効率のよいシステムを提供することがABDiのミッション
ABDiでは、オートバックスの店舗やFCの運営を支えるシステムの企画から開発、運用、保守までの全般を事業として展開している。具体的には、店舗システム、顧客システム、物流システム、会計システム、人事・給与システム、中古車販売システムなど、オートバックスグループの事業、およびFC運営で必要なシステム基盤を提供している。
店舗システムは、全国約600店舗の商品受発注、販売管理を行うための基幹系システム。店舗運営のノウハウを生かし、現場でのスムーズなオペレーションの実現をサポートする。また顧客システムは、稼働会員約850万人を管理し、さまざまなコンテンツを提供することで顧客体験を向上させる仕組みを提供する。
物流システムは、本部による集中購買で直営店やFCへのスムーズな商品共有を実現。東西に1カ所ずつある物流拠点から全国の店舗に商品を配送している。会計システムはオンプレミスでERPを運用。こちらはクラウド化も含めた刷新計画を検討中という。人事・給与システムもパッケージを採用している。
中古車販売システムは、カートレーディング事業をサポートする総合支援システムである。査定から自動プライシング、その後の買取り、中古車情報サイトへの自動連携など、一連のプロセスが標準化されており、オークション落札、新車の販売など、さまざまな要望にも対応できる。
「安全・安心なシステム、効率のよいシステムを提供することがABDiの柱となるミッションです。そのうえで、デジタル技術顧客接点を含め、お客様の体験価値を高めるための、よりよいサービスの提供に積極果敢に取り組んでいます。システム構築に関しては、可能な限り内製化したいと考えています。現在、内製化率は35%程度ですが、早い時期に50%以上に拡大し、社員数も現在の約120人から200人まで増やしたいと思っています」(則末氏)
DX推進の取り組みとしては、「滞留通知システム」や「オンライン接客」、「PIT(ピット:車両整備場)遠隔支援」など、デジタルを活用して業務改革、労働生産性の向上を目指すとともに、顧客起点から価値を創造し、最適なサービスを提供できるソリューションを提供。最終的に目指しているのは、自動車業界全体のDXである。
滞留通知システムは、店舗に設置されたカメラ映像をAIで分析し、特定の売り場に長時間滞在していたり、商品を手に取って迷っていたりする顧客を検知すると、店舗スタッフのタブレットにアラートを通知する仕組み。タイムリーな接客により満足度を高め、売り上げの向上に貢献することができ、「売り逃し」という小売業の大きな課題を解決することができるという。
オンライン接客は、店舗に設置された画面を通して、遠隔地のオペレーターが顧客にオンラインで接客する仕組み。顧客が店舗や通販サイトで商品選びに悩んだときに、いつでも、どこでも気軽に相談できるようにしている。PIT遠隔支援では、スマートグラスを活用して現場の整備士が、遠隔地の熟練者からリアルタイムに指導を受けながら作業できるようにした。整備業界が抱える人材不足の課題や整備技術力を強化する必要性などが背景にある。どこをどのように整備したのか、修理をしたのか、ブラックボックスになりがちな仕事だが、顧客が遠隔から整備の様子を映像で確認できるようにするなど、透明性を高めるための取り組みも始めているという。
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