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ここでなければできない体験、顧客取り込みへ充実 「没入感」味わえるホテルも登場

インバウンド(訪日客)の急増やオンライン注文の増加など消費市場の変化を受け、ホテルや飲食などの店舗では顧客を少しでも多く、長く引きつけようとアイデアをひねっている。

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産経新聞

 インバウンド(訪日客)の急増やオンライン注文の増加など消費市場の変化を受け、ホテルや飲食などの店舗では顧客を少しでも多く、長く引きつけようとアイデアをひねっている。ホテルは長期滞在の宿泊客を対象に館内での体験や娯楽を充実。回転ずしや書店は、店舗に来なければ得られない魅力的なサービスを提供しようと躍起になっている。

 ホテル業界では、宿泊客が長く滞在したいと思えるような体験サービスが広がっている。観光や出張の「手段」でなく、宿泊自体が「目的」となることが、ホテルが顧客満足を高めるうえで重要視されている。

 昨年4月に日本へ初進出したシックスセンシズ京都(京都市東山区)は、さながらクルーズ船のような仕掛けをそろえる。扇子づくりや風呂敷包み体験、ホテルの農園で採れたハーブを使ったボディケア用品づくり、京都産野菜の端材を生かした絵はがきなどのアート制作といった、毎月約40種類の多彩な無料アクティビティーを用意。

 「京都の混雑を感じることなく、ホテルに籠もってご当地の文化を体験できる」(担当者)ため、1人1泊10万円台半ばからと高額でも「連泊は多い」という。

 観光庁の調査によると、新型コロナウイルス禍前の2019年に8.8泊だった訪日客の平均滞在日数は、23年に10.1泊と長期化。遠方で移動費用が大きく、旅行期間が長くなる傾向がある欧米やオーストラリア方面からの客が増え、全体の宿泊費や飲食費を押し上げている。

 旅が長期化すると、宿泊先でも「飽きさせない工夫」が求められる。ホテル間競争が激化する中で目新しさや個性がなければ宿泊客がほかへ移りかねず、テーマパーク業界などで話題を呼ぶ「イマーシブ(没入感)」を取り入れる動きもある。

 西武・プリンスホテルズワールドワイド運営の「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」(東京都千代田区)が昨年10月に導入したのは、没入型エンターテインメント空間でコース料理を出す新サービス「イマーシブダイニング」だ。レストランの個室に富士山などのプロジェクションマッピング映像を投影。地上約180メートルから望む夜景や音楽とも調和し、没入感あふれる食体験が楽しめる。

 同レストランは2〜6人利用、1日1室限定で1人4万2千円から、別途個室代が2万円と高額だが、一度の滞在中に2回利用する訪日客もいるという。一体感のある演出には料理を出すタイミングや皿の配置など緻密な調整が欠かせず、「サービスの質が高いホテルだからできる強力なコンテンツ」と担当者。

 いかにして館内の魅力に磨きをかけ、進化を遂げるのかが、ホテルの中長期的な生き残りに向けた鍵になりそうだ。

回転ずしや書店にもエンタメ要素 「リアル」の価値

 オンライン購入の定着や物価高に苦しみ、ホテルとは市場環境の異なる飲食店や小売店でも客数減に歯止めをかけようと、「リアル店舗」での体験を打ち出す取り組みが始まっている。

 回転ずし大手のくら寿司は昨年11月、電飾付きのオブジェなどと一緒にケーキやちらしずしを回転レーンで客席へ届ける「ハレの日」向けの新サービスを始めた。14都道府県80店舗で導入済みで、今春には約550ある国内全店に広げる。東京の旗艦店では、職人が客の目前で調理する屋台を設けている。

 一方、社会の「活字離れ」に直面する書店も変わり始めた。出版取次大手の日本出版販売(東京都千代田区)は、アニメ声優や俳優の声で店内のガイドや本の朗読劇を楽しめる新サービスを来店価値につなげている。

 レンタルのスマートフォンとイヤホンを身に着けて店内を歩くと、現在地に応じて音声が流れる仕組み。当初は一部の書店での限定的な実施にとどまっていたが、今年2〜3月には東京都や茨城県の一般書店で期間限定イベントも予定され、導入が広がっている。(田村慶子)

同志社大商学部・高橋広行教授(消費者行動論)

 その場でしか買えない、体験できないという顧客の「体験価値」は、多様な業態で重視されている。ネット通販の定着や物価高などを背景に、出向くメリットがなければ実店舗へ行かない人が増えているためだ。

 訪日客が増える一方、国内は人口減で新規顧客の獲得自体が難しい。リピーターを増やすことが求められるが、客と継続的な接点を作り、信頼関係を築くうえで、交流サイト(SNS)などデジタルツールをうまく活用できるかが鍵となる。

 SNS登録を促して嗜好(しこう)に合う商品情報を知らせたり、顧客自身が発信したくなるような体験価値の高いコンテンツを用意したり。アイドルやアニメを取り入れた「推し活」消費も、好きなものには糸目を付けない若者を呼び込み、SNSへの発信を増やす効果がある。

 ただ、SNSに頼るだけでなく、店員やスタッフが顧客と対面することで、目には見えない「感情」に訴える価値が集客に欠かせない。きめ細かな接客はその一つだ。店舗での体験サービスには、SNSと接客をうまく組み合わせる視点が必要だ。(聞き手 田村慶子)

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