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GDP≠幸福? 様変わりする「幸せの尺度」 SNS・高齢化で消費はモノからコトへ

17日に発表された国内総生産(GDP)速報値は、内需の柱である個人消費の減速が目立ったが、街に出ると三者三様に「消費」を楽しむ人々の姿があった。

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産経新聞

 17日に発表された国内総生産(GDP)速報値は、内需の柱である個人消費の減速が目立ったが、街に出ると三者三様に「消費」を楽しむ人々の姿があった。GDPは豊かさを測る指標の一つだが、交流サイト(SNS)の普及や高齢化によって価値観の多様化が促され、「幸せの尺度」は変わりつつある。


ピラティスのレッスン。GDPがプラス成長を続け、消費スタイルも「モノからコトへ」と変化している=17日午前、東京都目黒区(斉藤佳憲撮影)

旅行のトレンドは体験型

 「地元ではできない体験をしようと思った」

 この日、東京都江東区の「江戸切子(きりこ)専門店煌粋(きらめき)」では、香川県丸亀市から訪れた会社員の女性(52)が、家族で国の伝統的工芸品にも指定されている江戸切り子の制作を楽しんでいた。

 旅行には、観光地を散策するだけではなく、その場所ならではの体験を取り入れる動きがみられる。漫然とした消費行動が薄れ、支出の目的意識が明確になっているのが現状だ。

 例えば、杉並区の女性会社員(25)は、男性アイドルグループへの「推(お)し活」に対する出費に「満足度が高いと感じている」という。コンサートチケットやCDの購入に惜しみなく出費するが、「日頃から元気をもらっているので惜しくはない」と話す。

 ファッションにも関心があるが、あれもこれも買い求めるのではなく、「ブランドが発信するメッセージに賛同して買うようにしている」。

社会の成熟でモノへの関心希薄化

 近年、個人の消費行動は、物品購入を中心とした「モノ」から、体験などを重視する「コト」へと変化したといわれる。

 経済成長に伴う社会の成熟によって物品が行き渡り、モノへの関心が薄れたという見方がされる。健康寿命が重視されるようになった社会の高齢化もコト消費を後押ししているかもしれない。

 姿勢の改善や体幹を強化できるエクササイズとして人気のピラティスのレッスンスタジオを全国展開するゼンプレイスでは、会員数がこの2年で約1.4倍に増えた。

 17日午前、東京・中目黒のスタジオを訪れた専業主婦の50代女性は「健康のため3年前に始めた。フットワークが軽くなり気持ちも明るくなる」と汗を流していた。

 健康を意識した消費行動はシニア世代に顕著となり、全国でフィットネスクラブを運営するルネサンスでは、60歳以上の会員が約36%(昨年3月時点)を占めるという。効果が出やすく退会率が低いため、「メインターゲットになりつつある」(担当者)。

 豊島区のフィットネスクラブで腰や腕の運動に汗を流していたのは、8年前に通い始めたという女性(84)。クラブは友人との社交場でもある。「効果を感じている」と語り、健康維持のための出費に満足感を覚えているようだった。

SNSで体験共有、参加意欲を喚起

 博報堂生活総合研究所の夏山明美・上級研究員によると、SNSで体験が公開・共有されることで、自らも体験したいという欲求が呼び起こされ、「参加する」ことの価値が見いだされるようになった。パブリックビューイング(PV)でのスポーツ観戦の人気の高まりはその一例で、夏山氏は「消費行動がより主体的(能動的)になってきた」と語る。

 今回のGDP速報値では個人消費が減速したが、だからといって必要以上に悲観的になることはなさそうだ。経済の視点で「幸福」について研究している拓殖大の佐藤一磨・政経学部教授は、「GDPが伸びたからといって幸福感も高まるわけではないことは、研究データでも示されている」と指摘する。その上で、価値観の多様化に触れ、「GDP統計に一喜一憂しないような社会環境になりつつあるのかもしれない」と話した。(山本玲、堀川玲、宮崎秀太、塚脇亮太、重川航太朗)

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