まるで動くホテル 仮設住宅にも使えるトレーラーハウス「カンバーランド・ジャパン」
災害に備える上で日常と非日常を分けない「フェーズフリー」が注目されている。日頃はセカンドハウスや店舗などに使用するトレーラーハウスに、災害時に応急仮設住宅として被災者に住んでもらう試みもその一つ。
災害に備える上で日常と非日常を分けない「フェーズフリー」が注目されている。日頃はセカンドハウスや店舗などに使用するトレーラーハウスに、災害時に応急仮設住宅として被災者に住んでもらう試みもその一つ。国内では見慣れない存在だったが、先駆けて製造販売してきた「カンバーランド・ジャパン」(長野市)は、個人だけでなく地方自治体にも販売先を急拡大している。
長野県須坂市の高原地帯にある「須坂健康の森RVリゾート」。RVは「Recreational(レクリエーショナル)Vehicle(ビークル)」の略でアウトドアも楽しめる多目的車両を意味する。
トレーラーハウス1棟に宿泊してみた。外観はタイヤの付いた紛れもない車両だが、中に入ると天井が案外高く、普通のホテルの一室のよう。窓の外で話している人がいるが声がほぼ聞こえない。しばらくいると、ここが車両内だということを忘れてしまっていた。
須坂市は温泉施設に隣接する遊休地を活用し、このRVリゾートを昨年7月に開設。備蓄車両を宿泊に利用しつつ災害時は仮設住宅となる。三木正夫市長は「新たに建設するより早く、住みやすい」と説明する。
同社は気密性で住みやすさを実現する。一般的な高気密住宅の3倍もあるという。被災地の仮設住宅で問題になる隣家の音漏れや冷暖房の効き、結露などが解決できる。
トレーラーハウスは平成7年の阪神大震災後、実質的に輸入解禁され、23年の東日本大震災を機に各地で知られる存在に。30年の北海道胆振(いぶり)東部地震で氷点下20度以下の寒冷地に耐え、昨年の能登半島地震でも約80台使用した。
政府は6月から災害対応車両登録制度を開始。トレーラーハウスやキッチンカーなどを被災地へ迅速に提供できるようデータベース化し、被災自治体のニーズによって車両を派遣できるよう全国で千台の登録を目指す。
一般的な住宅用車両の価格は約1千万円。同社は国際基準に基づき、構造、輸送、設置の各基準を設け、設置後の移動も行う。同社担当者は「平時は安心して使え、災害時は被災者に日常に近い生活を送ってもらえる」。移動できる“家”で夢を広げてみては。(市岡豊大)
「移動できる家を当たり前に」
原田英世代表取締役に聞く
――トレーラーハウス事業を始めたきっかけは?
「1990年代に米国でトレーラーハウスと出会い、日本向けにも意外と売れることに気付いた。当初、米国製は日本の気候風土に合わず、漏電やカビなどが多発し、日本の法律や基準に適合させる必要もあった。そこで国内に生産拠点を構えることにした」
――トレーラーハウスの強みは何か?
「最大の強みは移動できること。工場で生産して運べるので品質が安定する。接地面がタイヤなので免震構造だし、コンクリートの基礎が不要で自然を破壊しない。不要になれば転売も容易で、災害対応や海外での難民支援にも再利用できる」
――今後の展望は?
「住宅としての安全基準が不十分なので国と連携し、安全な製品が普及するようルール作りを進めている。現在の10倍に当たる5万台規模へ国内市場を拡大するのが目標だ。将来的には輸出して高い技術を世界に示し、日本の若い世代が関われる産業に育てたい。そして『移動できる家』が当たり前の社会を目指したい」
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