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鉄道会社が誇る武器でごみ収集支援 日本一安全な鉄道・小田急が仕掛ける戦略

小田急電鉄が、ごみ処理業務の効率化を支援する事業「WOOMS(ウームス)」の拡大を全国で進めている。

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産経新聞

 小田急電鉄(東京都新宿区)が、ごみ処理業務の効率化を支援する事業「WOOMS(ウームス)」の拡大を全国で進めている。鉄道会社の「本道」といえば、沿線の開発。だが、ウームスの事業対象は沿線に限らない。そうした取り組みを進める意義は何か。鉄道会社とごみ収集業務の親和性とは何か。事業の根底には、日本の鉄道業界が誇る「思想」があった。


小田急電鉄が開発したごみ処理の支援システム「WOOMS」を扱う作業員(同社提供)

ゴミ収集を「見える化」

 ウームスは令和3年からスタートした。衛星利用測位システム(GPS)などを使って、ごみ収集車の走行や収集の状況を地図上でリアルタイムで把握し、収集業務を効率化するシステムだ。つまり、ごみ収集業務を「見える化」する。

 まず、ごみ収集にあたる各車両側では、ウームスのアプリが入ったタブレットを搭載。画面では、自身の車両の現在地や、稼働する別の収集車の位置が映し出され、収集を終えた集積所、未収集の場所がそれぞれ色分けされる。収集の進捗(しんちょく)状況が分かるため、遅れが生じている収集ルートに対し、他の車両が自発的に支援に回ることが可能だ。

 一方、事務所側で管理するポータルサイトでは、事前に収集エリアや作業員の出勤状況に合わせ、各ルートを作成し編集。紙ベースの作業をほぼデジタル化した。当日の収集状況は責任者が画面で確認でき、車両への指示も可能。急な欠員があっても、ルート変更による対応が容易になった。

 このほか、車両の走行距離や積んだ量の集計、速度超過や急発進、急ブレーキといった危険な運転操作の有無を把握できる。

 導入した自治体では既に効率化の効果が出ている。

 今年で導入4年目になる神奈川県座間市では、車両1台の平均積載量が約1割増え、一方で運搬回数は約2割減った。その余力を剪定(せんてい)枝のリサイクル回収に回すことができており、その効果は年々上がっている。

「安全を支える」を強みに

 担当の同社デジタル事業創造部の猪口忠明課長(55)は「第一義的には、自治体のごみ収集の効率化、業務効率化を図ることが目的の事業」と説明した上で、こう指摘する。

 「鉄道事業は法律上、事業を進めるために安全性や正確性を強く求められる。特に当社は日本一安全な鉄道を基本理念に掲げて取り組んできた。安全を支えるという思想はわれわれの強みでもある」

 ある自治体で、収集業務の安全性を高めるためにウームスとドライブレコーダーを活用し、3千超の運転状況のデータなどを取得する実証実験を行ったところ、運転手の運転技術や傾向などの人的要因と、時間帯や運転時間、道路状況などの環境要因が重なることで事故のリスクが上がることなどが分かった。データをルート作成に反映させたり、情報共有することで事故リスクが抑えられる可能性もみえてきたという。

 猪口氏は「安全につながるノウハウを共有し、全国で事故を無くすことに役立てれば大変うれしい。そして、仕事への誇りを持ってもらい、組織のチーム力を向上させ、働き方が変わることで、さらに安全面を高め、人材不足の課題解決にも貢献できるのではないか」と期待する。

 根底にあるのは、鉄道会社が誇る安全・安心という考え方。ごみ収集ルートを柔軟に改善できるのも、日々、規律を守りながら、トラブル発生時には柔軟に対応して安全運行を確保している鉄道会社だからこそ可能になった。

少子化時代の鉄道の生き残り策

 少子化に伴う人口減少は、鉄道事業に大きな影響を及ぼしている。鉄道利用者は大きく減少し、特に地方の鉄道会社の経営を圧迫している。このため鉄道会社にとって、運輸以外の事業の拡大が進められている。

 ウームスは、沿線の神奈川県座間、藤沢両市のほか、東京都大田区などの関東圏、仙台市や青森県弘前市など全国の計約10自治体で導入されている。猪口氏は「私たちの安全性、正確性、効率性を維持する技術を生かして、地域を支える重要なインフラであるごみ収集業務を支えたい」と話している。

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