松屋の古屋毅彦社長、銀座に本店「他社に負けない」 働き方改革で時間単位の売り上げ増
社長就任後に始めた開店時間の1時間繰り下げといった働き方改革などで「時間単位の売り上げが(就任前の)1.5倍に増えた」ことを明らかにした。
百貨店大手、松屋の古屋毅彦社長が5日までに産経新聞の取材に応じた。社長就任後に始めた開店時間の1時間繰り下げといった働き方改革などで「時間単位の売り上げが(就任前の)1.5倍に増えた」ことを明らかにした。世界的に知名度の高い銀座に本店があるブランド力などを生かし、インバウンド(訪日客)の集客にもつなげる考えを示した。主なやり取りは次の通り。
――開店時間の繰り下げや初売りを1月3日にする働き方改革を打ち出した
「大みそかの深夜まで働き、そのまま1月2日の初売りの準備をするような状態は続けられないと感じていた。また、消費者の感覚ともずれるのではないかと思っていた。開店時間の繰り下げで年間の営業時間は360時間ぐらい減ったが、(仕事の)密度を上げて、社員みんなで頑張ろうと思っていた。結果的には、時間単位の売上高は1.5倍程度に増えた」
銀座で開店100周年
――今年は銀座本店の開店100周年。さまざまな施策を打ち出している
「前半は食に関する企画が多かったが、顧客に受け入れられるなど、手応えを感じている。後半は、当社と70年近くさまざまな取り組みをしてきた建築家やデザイナーなどからなる日本デザインコミッティーの展覧会などを催す。日本のデザインの発展に深くかかわってきた松屋のアイデンティティーなどを発信していきたい」
――銀座の街づくりにも関わってきた
「銀座という街は長い歴史の中で地元の店主らが大小関係なく議論しながら、時代に合わせて独自性を作ってきた。また間違いなく日本トップの商業の街だ。グローバルなブランドから地場の店まで、これほどクオリティの高い店が集積している街は世界的にみてもない。銀座は世界に知られており、そこに本店を置く唯一の百貨店として他社には負けたくない」
――インバウンドから選ばれるために、どういった店舗にするのか
「銀座に本店がある日本の百貨店として、やはり日本人のお客さまを大事にしていくのが前提にある。ただ、銀座で商売する以上は世界に向けても商売をしていくべきだ。世界中に百貨店があるが、一流の店にはあるべき品ぞろえというものがある。われわれも妥協なく(品ぞろえを)やらないと、海外のお客さまから見て、よい店でなくなってしまう」
オムニチャネルで「体験」も
――昨年11月、実店舗とネット通販を融合したオムニチャネルを立ち上げた
「百貨店の電子商取引(EC)サイトはリアルの店舗の補助的な位置づけでやっているところがほとんどだ。これに対し当社のデジタル化では、販売チャネルを増やし、リアルの店を強くするためのオムニチャネルという考え方があっている。顧客への商品の紹介だけでなく、体験などにもつなげていきたい。いずれ、リアルな店だけでは生き残れなくなる。一方、デジタルでビジネスをしている事業者はリアルの店を欲している。(リアルとデジタルの)境界線は曖昧になってきており、強いリアルな店があれば、(デジタルでも)チャンスは大きい」
――人口減少などで百貨店がない地域も増えている。業界の展望は
「もともと百貨店の半数程度は呉服屋だった。小売業は『変化対応業』といわれるが、呉服屋が百貨店に変化したのは、呉服屋のままでは大きくなれないからだ。呉服に加え、洋服や食品も売る百貨店となり、大きくなってきた。今はECサイトで何万、何十万もの種類の商品が売られている時代だ。新しい小売業の形をみなが模索している」
「百貨店ではなく、松屋という業態をやっていきたいという気持ちだ。銀座に素晴らしい店があることを生かし、付加価値で商売し、他にはない日本トップのプレミアム・リテーラー(小売業)を目指そうと社内では言っている」
古屋毅彦
ふるや・たけひこ 学習院大卒、米コロンビア大院修了。1996年、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2001年、松屋入社。取締役執行役員本店長、取締役常務執行役員、代表取締役専務執行役員などを経て、23年3月から現職。東京都出身。52歳。
編集後記
「会社は組織なので責任と権限を伴う階層はあるが、若い人も含めて自由な議論ができないといけない」。社長就任後、社長室を廃止。「さん」での呼称統一もルール化した。自身も他の社員と同じフロアで、固定席を設けないフリーアドレスで仕事をする。
創業家出身だが「祖父や父に『松屋に入れ』といわれたことはない」という。ただ、本店がある銀座の街を身近に感じて育ち、自然と家業を継ぐ形となった。銀座の本店は開店100周年を迎えた。老舗のトップとして、社会の変化にも対応しながら、オンリーワンの小売業をこれからも目指していく。(永田岳彦)
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