AIに賭けるDeNA、データガバナンスで安心・安全を:デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)
四半世紀前に創業したDeNAは現在、第2の創業と位置づけ、AIにオールインすることを宣言、AIを軸にしたさまざまな戦略を進める中、安心・安全なAI活用を支えるべく、データガバナンスに取り組んでいる。
「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」というミッションに基づき、ゲームをはじめ、ライブコミュニティ、スポーツ・まちづくり、ヘルスケア・メディカルなど、さまざまな事業を展開するディー・エヌ・エー(DeNA)。同社は現在、経営資源の全てをAIに投資する「AIオールイン」を推進している。
同社の安心・安全なAI活用を実現していくうえで重要な役割を担うのがデータ基盤部だ。「ゲームエンタメ」「ライブコミュニティ」「ヘルスケア・メディカル」「スポーツ・バックオフィス」という事業分野ごとに4つのグループがある「ストリームアラインドチーム」と、プラットフォームグループによる「イネイブリング・プラットフォームチーム」で構成されるデータ基盤部は、いわゆる「職能横断型組織」となっている。同社のAI・データ利活用戦略について、IT本部 AI・データ戦略統括部 データ基盤部 部長の深瀬充範氏にITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
DeNA全体でAIを適切に利活用するための守りの戦略「データガバナンス」
現在、DeNAでは、代表取締役会長である南場智子氏の大号令のもと、AIにオールインすることで、既存事業の生産性を向上させ、現在の半分の人員で現業を成長させる。残りの半分は次々と新規事業を起こして成長させていく、いわゆる「ユニコーン」の量産に挑戦することができる。その実現のためには、AIを単なる効率化のツールとして活用するのではなく、業務全体を再設計するためのツールとしての活用が必要になる。劇的な生産性の向上と業務改革であり、ドラスティックな企業変革を目指しているというわけだ。
データ基盤部の深瀬部長は、「AIを活用する場合、データが不可欠になりますが、単にデータをインプットすればよいというものではありません。AI活用のためのデータ基盤を整えて、全社向けのインフラとして導入を進めていくことが必要です。また安心・安全なデータ利用を実現するためにガバナンスを効かせることも重要です。AIにオールインするという経営からの期待に応えるには、データ活用のための“攻めの戦略”とデータガバナンス推進のための“守りの戦略”という2つの観点があり、これがデータ基盤部のミッションとなります」と話す。
守りの戦略であるデータガバナンスは、DeNAグループ全体でAIを適切に利活用するための指針「DeNAグループAIポリシー」に基づいて推進されている。これは、データ収集から活用までの方針、評価、監視体制を明文化し、データ資産を素早く、効率的かつ安全にビジネスで活用する状態を実現する全社横断的な取り組みである。経営トップはもちろん、IT、セキュリティなどの関係部門がデータガバナンスを推進すべく協働している。
「会社として情報・資産を守るためのセキュリティ・ガバナンスやプライバシー・ポリシー、そしてAI時代のためのAIポリシーはすでに確立されていたのですが、肝心のデータ利活用そのものを軸にした観点でのリスク管理への適応がこれからであったので、まずはデータポリシーの確立が必要でした。リスク対応には、回避、低減、移転、受容という4つの方法がありますが、例えば、どこまでのリスクを受容して、データを利活用すればよいのか、その判断を助けることもデータガバナンスの基準となっています。データのガードレールに近いのですが、最小のリスクで最大の成果を上げること、DeNAにおけるデータのあるべき管理を実現することを目指しています」(深瀬氏)。
データガバナンス推進は、データマネジメントの知識体系を標準化している「DMBOKデータマネジメント知識体系ガイド」に基づいて進められている。一般的な企業では、事業領域がある程度絞り込まれていてDMBOKも適用しやすいのだが、DeNAには複数の異なる事業領域があり、DMBOKの適用が困難だった。そこでDeNAの事業体系に即したチューニングを行い、DMBOKに対応しやすく標準化した「DeNAデータマネジメントクライテリア」の作成を進めているという。データマネジメントクライテリアとは、データマネジメントの評価基準や目標を定めるものだ。
「DeNAデータマネジメントクライテリアは、DeNAグループで定義してるセキュリティ・プライバシー・AIポリシーのそれぞれに並行して、全てのサービスだけでなく、データ利活用においても安心・安全かつ信頼できる技術を提供する取り組みです。2025年度の上半期にベースを作成し、2025年度中に全社に適用していくことを目指しています。現在は、特定の部門でトライアルを実施しているフェーズで、データガバナンス推進に関しては、現在導入中、成果に関しては今後の取り組みになります」(深瀬氏)
攻めの戦略「データ活用」で業務を効率化し、新たな価値を創出
攻めの戦略であるデータ活用では、ビジネスインテリジェンス(BI)によるデータ利活用に加え、AI技術の組み込みを進めているが、単にBIにAIを組み込むだけではデータ分析の効率化に留まってしまう。そこで、全社でコスト削減やイノベーション創出などを可能にする「生成AI活用のためのワークスペース構想」によるAIシフトを進めている。具体的なアプローチとして、まずはKintoneによる申請作業など、日常の定型業務の中にAIエージェントを導入するなど、全社で使えるAIプラットフォームの整備を目指している。
「DeNAはデータ分析におけるDXがかなり以前から進んでおり、ビジネス部門の担当者がBIツールを使ったり、SQL文を記述したりしてデータベースから必要なデータを抽出し、分析ができることが強みといえます。また、Google Workplaceを利用しているので、Googleの生成AIであるGeminiを全社員が使っています。ただしGeminiだけでは、社内文書のような、大規模言語モデルが学習していない情報を参照できないので、RAG(検索拡張生成)のような仕組みが必要で、それは内製化しています」(深瀬氏)。
一方、業務の効率化やAIリテラシーの向上、新たな価値創出を目的に、全社員がいつでもアクセスでき、業務に活用できる生成AIプラットフォーム「SAI」も内製化している。SAIでは、自然言語でAIと質疑応答ができる自由対話機能や社内のデータを取り込み、それをもとに質疑応答を実現するRAGの機能や、ユーザー自身が独自の生成AIアプリを開発、公開できるカスタムアプリ作成機能などが利用できる。すでに年間4万時間の工数削減を実現し、今後年間10万時間の工数削減を見込んでいる。
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