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【新連載】日本企業の競争力は、日本的経営の価値見極めから生まれる今、エグゼクティブMBAで重視される日本的経営とは(1/2 ページ)

エグゼクティブMBAプログラムで学んで気づいた、日本企業が本来持っていた強みを、現代的な経営手法と組み合わせることで競争力を取り戻せる可能性がある。

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 この春から、私はアメリカ・UCLAアンダーソン経営大学院(以下UCLA)とシンガポール国立大学(以下NUS)が共同で運営するエグゼクティブMBAプログラムに参加しています。単位を取得して卒業できれば両校の経営学修士号が取れるプログラムです。参加者は世界各国から集まったマネジメント経験豊富な経営者もしくは経営者予備軍に加えて医師などのプロフェッショナルたちです。

 UCLAのあるロサンゼルスやNUSのあるシンガポールだけでなく、上海やドバイなどを巡りながら、経営理論と現場の実践を往復する15カ月間のプログラムです。この挑戦を決めたのは、自分自身の視野を広げ、経営者として次のステージに進むためです。AI時代に必要なリーダーシップを磨いていきたいと考えたからでした。


三木氏、8月ロサンゼルスにて(写真:著者提供)

 さて、このプログラムの授業に参加してみて驚いたことがあります。それはこのプログラムのどの授業でも強調される経営の要諦が、現在ではJTC(Japan Traditional Company)と揶揄されることもある日本的経営と通底するということでした。

 海外の企業経営では、成果主義や株主価値を最大化することは当然の前提としても、どの授業でも、組織全体が学び、変化し続ける力が重視されることが強調されていました。

 特に危機の時代においては、リーダーの役割は「指示」よりも「理解と共感」にあります。つまり、コミュニケーションの質と深さが極めて重要なのです。表面的な言葉のやり取りではなく、相手の価値観や感情、背景にある信念といった「見えない部分」にまで配慮し、意味を共有する力が求められるのです。これは、人の行動の大半が水面下の心理要因に支えられているとするアイスバーグ理論の考え方と重なります。

 また、授業のテキストでは継続的に学び、環境変化に柔軟に適応する「学習する組織」も取り上げられていました。そこでは、心理的安全性や信頼に基づく対話、経験の振り返りを通じて知識を共有し、組織全体の知恵へと高めることが重要と説かれています。

 興味深いのは、こうした考え方が、実は日本的経営が持つ暗黙知の共有、根回しによる合意形成、稟議や年功による長期的関係構築といった伝統的手法と通底している点です。すなわち、最先端のリーダーシップ論は、異常なほど変化の激しい環境に適応するために「人の相互理解と協働を基盤とする組織運営」へと回帰しているのです。

 もちろん、このような日本的経営の要素だけでは、グローバル競争や急速な技術革新に対応できず、いわゆる「失われた30年」の一因となったことは事実でしょう。意思決定の遅さ、グローバル人材の不足、デジタル化の遅れなどが、日本企業の競争力を削いできました。

 しかし、日本的経営の強みである長期志向、品質重視、協調性といった要素を活かしつつ、構造改革とグローバル経営を両立させることで復活を遂げた日本企業もあるのです。このような企業については、早稲田大学の池上重輔教授の著書「Resolute Japan: The Leaders Forging a Corporate Resurgence(筆者訳「確固たる日本:企業を復活させるリーダーたち」)ウォートンスクール出版」に詳しく取り上げられています。

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