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AIに取り組まないことは事業リスク、ただし顧客のデータを守り倫理に反しないことは絶対条件――パーソルテンプスタッフ 執行役員 CIO 朝比奈ゆり子氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

パーソルグループでは、経営層が先頭に立ち、部門やスキルを問わず、さまざまな従業員がAIと向き合い、試行錯誤を重ねながら活用文化を育てる取り組みを進めている。

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 アイティメディアが主催する「Enterprise IT Summit 2025 秋 AI時代に大企業のIT部門が選択すべき最適解」の基調講演に、パーソルテンプスタッフ 執行役員 CIOである朝比奈ゆり子氏が登場。「AIと共に進化する組織 〜全社員を巻き込む経営のアプローチ〜」をテーマに、同社がAI活用をどのように後押しし、共感と主体性を引き出しているのか、組織がAIとともに進化するためのリアルなアプローチについて講演した。

パーソルグループにおけるAI活用の現在地

 パーソルグループは、人材派遣サービスの「テンプスタッフ」、パーソルキャリアが運営する転職情報サービス「doda(デューダ)」など、人や組織に関するサービスを提供している。創業は1973年で、国内37社、海外111社(2025年10月1日時点)のグループ企業を展開している。国内企業のDX推進の取り組みについて、朝比奈氏は、「創業50年以上の基本的には昔ながらの日本企業(JTC:Japanese Traditional Company)ですが、AIとともに進化する組織の実現に取り組んでいます」と話す。


パーソルテンプスタッフ 執行役員 CIO 朝比奈ゆり子氏

 現在、パーソルグループでは、人や組織、人材ビジネスに関わる分野でAIを活用した新たな価値創造の取り組みを推進している。具体的には、「AIスキルシート作成」で最大92%、「AI職務経歴書作成」で最大48%、「AIスカウトメール自動化」で最大80%の作業工数を削減した。また、AIによる「コメント生成アシスト機能」で派遣先企業からのフィードバックコメントの量が45%増加したほか、「AI職務経歴書作成」で所要時間を75%削減するなど、すでに定量的な成果を創出している。

 生成AIの普及初期である2023年8月には、社内版GPT「PERSOL Chat Assistant」を内製化によりリリース。また「ラーニングコミュニティ」「ボトムアップ型学習プログラム」「プロンプトの市民開発」により現場の社員主導で生成AI活用を推進している。

 「ラーニングコミュニティは常時6000人以上が、ボトムアップ型学習プログラムは延べ6600人以上が参加しています。さらにプロンプトの市民開発「プロンプトギャラリー」が2023年8月リリースされ、累計1万8000ダウンロードされています」(朝比奈氏)


グループ全体でAIを活用した新たな価値創造の取り組みを推進

パーソルグループのAI基本方針を策定してグローバルで共有

 パーソルグループでは、2023年11月に社内版GPTの愛称を「CHASSU(チャッス)」に決定し、アシカをキャラクターにグループ約2万人の生成AI活用環境として展開している。現在、月間利用者数が1万2000人以上で、約8割のメンバーが利用しているという。CHASSUでは、「チャットモード」や「画像生成モード」「Webチャットモード」「スライドボックス」「プロンプトギャラリー」など、多彩な機能を提供している。

 「最大の特長は、ウェブ版、アプリ版、Teams版、スマホ版でCHASSUの機能を展開していることです。例えば、スマホ版を利用することで、社外にいる営業担当が音声入力で簡単にデータをインプットできます。またアウトプットに関しても、応答テキストをAIから返すだけでなく、例えばマインドマップ形式で出力できるような機能や、会社のPowerPointフォーマットを利用してドラフトを作成できる機能なども提供しています」(朝比奈氏)

 CHASSUの機能の中でも、生成AIの活用が盛り上がった最初の仕掛けが「プロンプトギャラリー」である。プロンプトギャラリーは、CHASSUのリリース当初からの実装機能で、実務に活用できるものはもちろん、クスっと笑えるようなプロンプトを誰でも登録することができる。共有された機能がよいなと思ったら“いいね”ボタンを押し、使いたいと思ったらダウンロードして使える仕掛けになっている。

 社内向けのAIエージェントの開発では、AIエージェントをノーコードで簡単に開発できる「Dify」をベースに「CHASSU CRE8(チャッス クリエイト)」を開発。「AIエージェント 設定画面」、および「AIエージェント 共同利用画面」で構成されるCHASSU CRE8を利用することで、業務の効率化に必要なAIエージェントをエンジニアではない現場の社員が簡単に開発することができる。現在、開発者の非エンジニア率は99%という。


社内向けAIエージェント開発を加速する「CHASSU CRE8」

 一方、人材サービス企業としてAI利活用はセンシティブである。朝比奈氏は、「AIをどう活用するかという以前に、お客さまの信頼を損なうことがあってはいけません。そこで2024年度にパーソルグループのAI基本方針を策定し、グローバルで共有しています。また基本方針を正しく運用し続けるためのAIガバナンス審議会もグループ全体で運営することで、お客さまの安心・安全を守りながらAI活用を進める体制を構築しています」と話している。

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