原薬を中国に依存している抗菌薬について、製薬大手の「Meiji Seikaファルマ」(東京)と「塩野義製薬」(大阪)が一部製品や原薬の在庫を増やしていることが23日、分かった。台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁に中国政府が対抗措置を示したこともあり、中国依存から脱却する必要性が顕在化。日本の医療体制確保のため、製薬大手が原薬の供給途絶に備え必要量の確保に動いた格好だ。
両社が積み増しを進めている主な医薬品は、医療現場で広く使用される「ベータラクタム系」と呼ばれる抗菌薬。抗菌薬は感染症治療や手術時の感染予防に不可欠で、供給が途絶えれば国民の命に直結する。このため、経済安全保障法で航空機部品や半導体などとともに「特定重要物資」の一つに指定されている。
抗菌薬の原薬はほぼ中国に依存し、日本国内だけで一から製剤化することは現状不可能だ。このため両社は在庫を積み増すため中国からの原薬輸入を今はある程度増やし、国内での抗菌薬増産や原薬の国産化も進める。
塩野義は原薬や前段階の原料について約23億円を投じ、1年分の在庫をなるべく速やかに確保する。Meijiは2024年度から段階的に抗菌薬の在庫を増やしており、今年度から1年分の製剤確保を目標に設定。在庫確保には数年を要する見込みだ。
日本の抗菌薬は、薬価引き下げによる採算悪化を背景に中国での原料や原薬などの調達が常態化してきた。特にベータラクタム系抗菌薬の原薬依存率はほぼ100%に達しており、供給途絶時の医療現場への影響が懸念されている。
実際、19年には中国の原薬工場のトラブルにより国内ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの抗菌薬生産が停滞し、手術の延期が相次ぐ事態が発生。国はベータラクタム系抗菌薬の生産に着手している国内製薬企業の支援を開始している。(清水更沙)
抗菌薬 肺炎や尿路感染症、敗血症など幅広い感染症治療のほか、手術時の感染予防にも使われる医療現場では欠かせない医薬品。細菌の増殖を抑えたり、死滅させたりする働きがある。幅広く使用されるベータラクタム系抗菌薬はほぼ100%中国に依存。政府は2022年、経済安全保障推進法に基づき「特定重要物資」に指定し、安定供給の確保を進めている。
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