欲しい商品の情報が届く「リテールメディア」 電子看板やアプリ 小売業界が広告ビジネス
店の品ぞろえや値段を知るために昔から活用されているスーパーマーケットなどの折り込みチラシ。近年は店が来店客の買い物傾向にきめ細かく応じる形で、店内のデジタルサイネージ(電子看板)で発信したり、アプリ会員にスマートフォンで個別の情報を届けたりする広告「リテールメディア」が広まっている。「これが欲しかった」という商品情報が手に入りやすくなることが期待できそうだ。
店の品ぞろえや値段を知るために昔から活用されているスーパーマーケットなどの折り込みチラシ。近年は店が来店客の買い物傾向にきめ細かく応じる形で、店内のデジタルサイネージ(電子看板)で発信したり、アプリ会員にスマートフォンで個別の情報を届けたりする広告「リテールメディア」が広まっている。「これが欲しかった」という商品情報が手に入りやすくなることが期待できそうだ。
「当店のおすすめはモカブレンド。そのこだわりは…」
ファミリーマートで設置が進む幅約3メートルの大型サイネージ「ファミリーマートビジョン」には、日々さまざまな情報が映し出される。商品広告だけでなく、ニュースやクイズ、アート、ミュージックビデオなど。都道府県、若者が多い大学周辺、オフィス街など立地ごとに顧客の属性に合わせたメニューが可能だ。
2025年12月末で国内の6割超に当たる約1万820店舗に導入。広告案件の77%で売り上げ効果を確認している。ファミマ傘下でリテールメディア事業を手がけるゲート・ワン(東京)の速水大剛取締役は「広告と自然に接触するため、消費者にとっても押し売り感が少ない」と話す。
一方、リテールメディアにはスマホアプリなどを通じて個別の顧客に直接訴えかけるものもある。総合スーパーを運営するイオンリテールの公式アプリ会員は約1415万人に上り、広告主の企業数は24年度で230社と19年度から10倍以上に伸びた。
170項目に分類した会員の趣味・嗜好(しこう)に合わせ、アプリに表示するお勧めの商品や特典をカスタマイズするなどし、購買率を高めている。同社には豊富な品ぞろえと同時に、膨大な顧客データがあり、田中香織デジタル企画部長は「広告主に提供する情報の幅や深さ」に自信を込める。
米アマゾンに代表される電子商取引(EC)で、過去の購入履歴や検索情報に基づいたピンポイントの広告展開は消費者にとっておなじみになっている。実店舗でも幅広くアプリ会員を募ることを通じて、同様の試みが進んでいる。
サイネージやアプリなどによるリテールメディアの国内市場は右肩上がりで、電通傘下のカルタホールディングス(東京)は25年の国内市場を6066億円と推計。28年に初めて1兆円を超え、29年は1兆3174億円を見込む。コンビニやスーパーにとどまらず、他業態でもキリン堂やエディオンなどが続々と参入している。
リテールメディアは店舗側に広告収入をもたらす。広告料を支払う商品メーカー側にとっても、買いたいものを探している顧客を対象にした広告効果への信頼性が高い。ファミリーマートビジョンと連動した販促キャンペーンを実施したコカ・コーラボトラーズジャパンの担当者は「消費者に直接訴求できる」と利点を強調する。
世界市場は26兆円、アマゾンとウォルマートが牽引
日本で急成長のリテールメディア市場だが、先行するのは米国を中心とする海外だ。広告世界大手、英WPP傘下の米WPPメディアの推計によると、2025年のリテールメディアの世界市場は1696億ドル(約26兆6500億円)。30年までに約1.5倍の2521億ドル(約39兆6千億円)に拡大し、世界の広告収入全体の18%を占めると見込まれている。
市場を牽引しているのは、アマゾンと米小売り大手ウォルマートの2強だ。
月間の平均アクセス数が約27億回と、世界で最も訪問者数が多い小売りサイトを運営するアマゾンは12年から広告事業を本格化した。商品の検索ワードや過去の購買・閲覧履歴といった膨大な顧客情報を生かし、より精密なターゲット層への広告表示を可能にしている。
ウォルマートも21年に始動したリテールメディア事業「ウォルマート・コネクト」をはじめとする広告事業の売上高が25年1月期に44億ドル(約6900億円)と前年から27%増えた。同社全体の売上高の約0.65%だが、営業利益に占める割合は約25%に達しているとの報道もあり、広告業が収益の大きな柱になっている。
一方、中国大手EC、アリババのリテールメディア参入はウォルマートより早く、07年11月にネット広告事業の子会社「アリママ」を立ち上げた。人工知能(AI)で商品のキャッチコピーやPR動画をすばやく簡単につくれる仕組みを広告主に提供するなどし、強みを発揮している。(田村慶子)
ユーロモニターインターナショナル・木村幸シニアコンサルタント「顧客情報管理の透明性も重要」
2024年の小売り総売上高に占める電子商取引(EC)の割合は世界平均の22%に対し日本は15%で、韓国(49%)や中国(35%)より小さい。日本でEC市場は伸びているが実店舗で買う比重は依然高く、日常的に利用されるコンビニが広告プラットフォームとして優位性を持つ。
日本でリテールメディア市場が成長を続けるための課題は、効果を測る仕組みの構築だ。購買に至るまで複数の接点がある中で、どの広告が貢献したかを可視化する「アトリビューション分析」の導入などが求められる。
また、顧客情報がどう管理、利用されているかの透明性を保ち、プライバシーを保護することも重要だ。信頼性を損なえばブランド価値も下がるため、業界全体でガイドラインなどを強化する必要がある。
日本では既存メディアであるテレビコマーシャルに存在感があるが、若年層のテレビ離れから広告媒体はSNSや動画配信サービスへと急速に移行している。既存メディアと連携しつつ、(アプリなどの)デジタルを起点とした広告施策を強化するなどの柔軟性が求められる。(聞き手・田村慶子)
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