「エラーの滝」にも怯まず挑戦を続けたから今がある――DeNA IT本部長 金子氏:IT責任者の矜持(2/2 ページ)
大規模インフラ運用や全社のクラウド移行を指揮してきたDeNA・IT本部長の金子俊一氏。現在は「AIネイティブ化」の責任者として、AI時代を見据えた組織改革までもけん引している。経営と現場をつなぐITリーダーのこれまでの軌跡と、今後の展望に迫る。
限界を突破するインフラ技術と、コスト半減の「全社クラウド移行」
――その後、インフラエンジニアに転向したわけですね。
金子氏: プロキシサーバの運用が安定して手が空いてきたんですね。そのタイミングで、少数精鋭だったインフラ担当が恒常的に人員不足だったので、声がかかりました。
まだスマートフォンが普及していない時代で、当時のモバゲーはトラフィックが世界最大級で、米国でも研究対象のシステムだったようです。正直、エラーログの滝を経験した後で怖い気持ちもありましたが、世界規模のインフラの運用に携われる機会はそうありませんので、ワクワクしながら異動しました。
まだ若かったので勢いもありましたが、振り返れば、ソフトウェア開発だけではわからないことがたくさん学べたので、大きな転機でした。
――全社のオンプレミス環境をクラウドに移行した際も、インフラトップとして手腕を発揮されましたね。
金子氏: はい。クラウドのメリットは当然わかっていましたが、会社の収益に悪影響が出てしまったらよくないので、コスト面は特に慎重に検討しました。何せサーバの数が非常に多い大きな環境だったので。
クラウドはベンダーの運用コストなどの付加価値が利用料金に追加されるため、オンプレミスに比べたらコスト増になりがちです。細かく徹底的に試算した結果、「当初の見積もり額の半分程度にできたらGO」という結論に至りました。
いろんな施策を重ねて半額まで持っていきましたが、技術的なアプローチで効果が大きかったのは「スポットインスタンス」の活用ですね。これは余りリソースを借りて動かすようなインスタンスで、正規注文が入ると数分以内に強制シャットダウンされる代わりに、格安で借りられます。Webサーバのようなステートレスな処理を複数リージョンに分散させ、通知から2分以内に落とされてもサービスが途切れない仕組みを構築することで、運用コストを下げられました。
そのほか、長い間積み重ねてきたオンプレミスの運用ノウハウが消失してしまうのではないかという懸念もあり、サービスによってはオンプレミスを残してもよいのではないという議論もありましたが、全体最適をとって全面移行を進めました。
クラウド移行は2018年から2020年にかけて実施し、その後はセキュリティ、品質管理、データ、AIへと管轄範囲が広がっていきました。
「AIネイティブ化」への全社的な取り組みとセキュリティ基盤
――現在、AI関連の取り組みで進めているものはありますか。
金子氏: 昨年からは、全社の「AIネイティブ化の責任者」として動いています。
「AIネイティブ化」というお題はざっくりしていますが、まずは「社員のAI活用レベルを定量的に測れるようにしよう」と考えました。また現在、AIツールは日進月歩で、今はまだ特定技術に収束するフェーズではなく、発散して試行錯誤するフェーズです。そのため、より迅速に様々なAIツールを試せるようなワークフローの整備や予算の確保も進めてきました。
――新しいAIツールを次々と試す中で、セキュリティのガバナンスはどのように効かせているのでしょうか。
金子氏: まずは「AI利用に関するポリシーとガイドライン」を明確に設けています。大きく分けると、「他者の権利を知らずに侵害してしまうリスク」と、「自社の機密データを漏えいしてしまうリスク」の2つにフォーカスを当てつつ、誤推論や脆弱性についても言及し、従業員が安心して使える環境や仕組みを整えています。
情報の機密区分(個人情報や極秘情報など)ごとに、「このツールはデータ処理の契約(データプロセッシングアグリーメント)をベンダーと締結しているから業務利用OK」「これは締結していないからお試しのみ」といった分類とマスター管理を行っています。これは従来のITガバナンスやDX推進の延長線上の考え方だったのでスムーズに導入できました。
――セキュリティリスクの面で、昨今のトレンドについてどう見ていますか。
金子氏: いわゆる「ゼロデイ攻撃」のような、未知の脆弱性を突く攻撃がAIの普及によって急増するだろうと見ています。そうなると、対応に求められる速度が無慈悲なほど短くなります。
攻撃を防ぐだけでなく、攻撃された瞬間にいかに対応できるか。被害を局所化することが、どの組織のシステムでも求められるようになります。
「AIジェネラリスト」と「AIスペシャリスト」。次世代の組織づくり
――開発現場ではAIの活用が急速に進んでいますが、DeNAではどのような状況でしょうか。
金子氏: プログラムの生成量だけで言えば、圧倒的にAIが書くコードの方が多くなりました。AIが書いた後、レビュー専用のAIや静的なコード解析と組み合わせて人間が確認することで品質を担保する、というスタイルに移行しています。
――それに伴い、人事や組織の体制も大きく変革されたとお聞きしました。
金子氏: 新卒採用の要件を根本から変えました。これまで「エンジニア職」「ビジネス職」「クリエイティブ職」と分かれていたものを、新たに「AIジェネラリスト」と「AIスペシャリスト」の2つに再定義しました。
これからの時代、全社員がAIを使いこなすことは必須スキルです。そのため、従来のビジネス職などもすべて「AIジェネラリスト」のサブセット(一部)という位置付けにしています。
また、全社員のAIスキルを可視化する「DARS(DeNA AI Readiness Score)」という指標を作り、目標設定と連動させることで、会社全体のAIレベルの底上げを強力に推進しています。
――「AIスペシャリスト」は具体的にどのような業務を担うのでしょうか。
金子氏: 例えばマルチモーダルAI(動画や画像、音声などを組み合わせたAI)の分野では、動画を解釈してデータ化することに強みを持つスペシャリストがいます。彼らは横浜DeNAベイスターズのチームに張り付き、選手の動きをまるでゲームのように数値化しています。「1軍当落線上の選手に対し、この能力が足りないからこのトレーニングをしよう」とコーチや選手にアドバイスできるシステムを作るなど、データサイエンティストの発展版のような活躍をしています。
――最後に、金子さんご自身が今後挑戦していきたいことを教えてください。
金子氏: 昨年、社長の南場(当時は会長)の号令で「AIにオールインする」という方針を打ち出し、全社のAIネイティブ化を全力で進めてきました。その取り組みとともにDeNAのAIブランディングはかなり上手くいったと自負しています。
今後は、これをいかにマネタイズにつなげていくかが最大のテーマです。
2024年頃はChatGPTに代表される対話型(チャット型)AIが一気に普及しましたが、次は自律的に動く「エージェンティックAI(Agentic AI)」や「フィジカルAI」の時代が来ると考えています。これらを情報システムだけでなく、人事や開発プロセス全体にいかにアジャストさせていくか。
まだ模索中の部分もありますが、AIが事業に直接的なインパクトを与えるビジネスモデルを構築し、世の中に発表していきたいと考えています。
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