【第3回】「ダイバーシティの多様化」が進む欧州企業:ダイバーシティの“今”を追う(1/2 ページ)
今回は欧州とくに大陸欧州のダイバーシティ・マネジメントについて触れる。大陸欧州のダイバーシティは米国の女性の能力活用、人種平等から発生した企業内の多様性の容認による組織能力の開発とは異なるのが特徴だ。
前々回(第1回)、前回(第2回)とは、日本企業・米国企業におけるダイバーシティ・マネジメントにいて述べましたが、今回は欧州とくに大陸欧州のダイバーシティ・マネジメントについてお話したいと思います。大陸欧州のダイバーシティは米国の女性の能力活用、人種平等から発生した企業内の多様性の容認による組織能力の開発とは異なり、女性の社会の進出と雇用・労働形態やライフスタイルの多様性の容認の大きな2本の柱から成り立っています。
その根底にあるのは雇用機会の確保です。特に社民主義の考え方が根強く、業種間の壁もそれなりに存在し、雇用のほとんどを中小や零細企業がまかなっている大陸欧州では北米のように大企業を渡り歩いてキャリアを積んでいくモデルではなく企業内の横異動でキャリア開発を行っています。大陸欧州には北米のような能力重視のダイバーシティではないもう一つのダイバーシティが存在します。
大陸欧州におけるダイバーシティ・マネジメントの変遷と現状
欧州連合(EU)の性差別に対する取り組みの歴史は古く、1957 年の欧州経済共同体(EEC)創設条約に、男女間の賃金差別を禁止する条項が含まれています。男女間の機会均等は、EUにおける基本的権利のひとつであり、共有の価値観、EUが掲げている成長、雇用、社会的結束の目標を達成するための必要不可欠な条件でもあります。
EUは「男女平等へ向けての計画表(2006 〜 2010 年)」を策定し、ジェンダー・メインストリーミング(男女平等の考え方を政策やシステムに取り入れること)を通じた男女平等の実現と女性の進出率が低い(under-represented)分野の対策を二本柱に、新しい施策と、成功している既存の活動の強化を組み合わせた対策を取っています。
雇用・労働形態、ライフスタイルのダイバーシティ
欧州各国は1980年代以降、雇用規制の強い「失業大国」でしたが、90年代前半に東欧からの移民の流入などによって失業が深刻化し、雇用政策の見直しを迫られました。高い失業率を背景に、高成長・雇用の安定とともに社会の結束を強化する、欧州独自の政策が求められました。
EUは、雇用戦略の中でFlexibility(労働市場の柔軟性)とSecurity(雇用の保障)を掛け合わせた「フレキシキュリティ」という造語を用いた戦略を打ち出し、2006年にはEUの雇用状況を分析する報告書『Employment in Europe 2006』で加盟国に対して、「フレキシキュリティ」の導入を強く奨励しています。
国家がリードするダイバーシティ・マネジメント
欧州では、正社員ではあるが時短で働く、企業に雇用されながら在宅で働く、就学のために一時休職をするといったケースが珍しくありません。特にオランダ、デンマークなどの国々では政労使が協調して「働き方」に関する各種政策、施策を進めて来たいきさつがあり、勤務時間、勤務場所、長期休暇の自由度は、多くの日本企業のしくみ(制度)よりも進んでいます。
デンマーク
デンマークの政策は、「黄金の三角形(ゴールデン・トライアングル)」と呼ばれ、1.解雇しやすい柔軟な労働市場、2.手厚い失業給付、3.充実した職業訓練プログラムを軸とする積極的労働市場政策、の三つが有機的に連携しています。
2007年10月には「出産休暇均等法」が施行されました。この法律は、企業が従業員数に応じた分担金を基金に拠出し、女性が育児休業を取得したら、その基金から政府の手当てに上乗せして給与を補填する、といったものです。これによって、出産を機に退職していた女性たちの数が減り、企業も休業が終了したらそのまま雇用することが可能となり、貴重な労働力を確保しやすくなる、という仕組みです。
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