さらに進化するインターネットビジネス:米Zazzleが日本語版を開始
米国から従来とは少し毛色の異なるビジネスが日本に持ち込まれ始めた。オリジナルTシャツなどをインターネット上で売買する米Zazzleやバーチャルイベントの例から、変化について考えてみる。
米国から従来とは少し毛色の異なるビジネスが日本に持ち込まれ始めた。オリジナルTシャツなどをインターネット上で売買する米Zazzleは5月13日、日本語版のサービスを開始したと発表した。オリジナルTシャツなどを誰もが自由にデザインし、販売できるのが特徴だ。一方、社内外のイベントをバーチャルで実施する「バーチャルイベント」にも注目が集まる。移動コストの削減などの目に見える効果はもちろん、電子情報が持つ価値を再定義する側面もある。リアルの置き換え以上の機能の提供が、インターネットビジネスの新たな成功の鍵になりそうだ。
クリエイティビティを売る
月間2000万のユニークユーザーがあるZazzleの店舗では、Tシャツなどの商品をユーザーが専用のツールを用いて自由にデザインし、10〜99%までの間でマージンを自由に設定して販売できる。商品が売れた時点で生産を開始するため、基本的に売り手に販売に当たっての在庫リスクがないのが特徴だ。
そのため、デザインに自信があればそれだけで高利益率の商売が始められる。Zazzleで消費者がTシャツを購入すると、米カリフォルニアのサンノゼにあるZazzle工場が24時間以内に商品を生産する。配送リードタイムを含めても、注文から3〜4日で日本に商品が到着する。ちなみに送料は800円だ。
来日したZazzleのバイスプレジデント、ジェーソン・カング氏はZazzleのコンセプトについて「マーケットプレイスとしてはeBay、24時間以内に単品の商品を受注、製造、出荷するプロセスはDellをモデルにした」と話す。2005年6月にWebでの販売を開始。現在はアパレル、カード、ポスター、マグカップ、靴などを扱っている。
従来は実店舗で買っていた商品をネットを介して売買するというこれまでのネットビジネスに、オリジナルデザインや、映画およびアニメのキャラクターを使ったクリエイティビティを足し合わせることで、インターネットでしかできないビジネスに仕上げた。世界中の消費者に無理なく商品を販売できる点も強みだ。
日本語版設立の狙いは、世界的に知られる日本のアニメやマンガのキャラクターを使った商品展開だという。既に米国では「ストリートファイター」などのキャラクターを商品化した。日本ではトランスコスモスが2007年にZazzleへの投資を開始。今回、日本語化や顧客サポートなどを手掛けている。
トランスコスモス・アメリカの永倉辰一CEOはZazzleについて「個人の創造力を商品化して販売するプラットフォームを高い次元で実現しているZazzleに将来性を確信した」と期待を込める。GoogleやAmazon.comの取締役でもあるJohn Doerr氏やRam Shriram氏が取締役を務めていることも、同社への信頼感につながった。将来的に、ZazzleのNasdaq上場によるキャピタルゲインも見込む。
店舗で買っていたものをウェブ経由で買うというこれまでのネットビジネスを進め、独自ツールを使いデザインなどの「クリエイティビティを売る」という点で、新たな形といえる。
バーチャルイベントの可能性
米Cisco Systemsなどのグローバルな巨大企業では、しばらく前から社内の情報共有のためにバーチャルイベントサービスが広く使われるようになっている。バーチャルイベントは、インターネット上に専用サイトを制作し、あたかも実際の展示会などに足を運んだかのようなレイアウトを作成し、ユーザーが必要な情報を映像やテキスト、チャットなどを交えて収集するためのツールだ。
Ciscoは社内イベントとして「Cisco GSX」を開催している。従来は世界の特定の場所に集まる集合教育の形式だったが、現在はそれを完全にバーチャル化している。世界の89カ国から参加者を集め、88時間ノンストップで開催する。世界の3拠点にヘルプデスクを設置し、ユーザーの要望に対応する体制だ。仮想現実ゲーム「The Threshold」には1万3000人が参加。8000人以上がチャットゾーンでチャットする。
8万4400トンのCO2削減に貢献する一方で、旅費などを併せたコスト削減率は90%に及ぶという。参加者満足度もリアルイベントに劣らないとCiscoのCarlos Dominguez上級副社長は説明する。
だが、こうした数字はどこまで信頼できるものなのか。背景にはどんな事情があるのか。日本でバーチャルイベントサービスを手掛けるストーリアワークスの玉木一郎CEOは「バーチャルイベントの登場により、イベントの価値が“場所”から“コンテンツ”に移行した」と指摘する。
玉木氏によると、従来のイベントは「場所」に行くことが目的となっていた。多くの来場者は電車で展示会場に足び、大規模なスクリーンなどの仕掛けがある大きなブースに引き寄せられる。場合によっては、コンパニオンの女性を見て満足してしまうこともあるのが1つの現実というわけだ。
一方で、バーチャルイベントはあくまでもウェブ上であるため、大規模なブースといってもそこまでの吸引力は持ち得ない。結果として「展示企業が掲載している商品の画像や映像といったコンテンツにより多くの来場者が注目することになる」としている。
「リアルのイベント会場で小さなブースを構えても誰も来場しないかもしれないが、バーチャルは違う」(同氏)
SAPジャパンのバイスプレジデントを経て、製造業のミスミで事業本部長などを経験した玉木氏は「特に製造業などのプロフェッショナル用の商品などは、プロがその画像や映像を見ればひと目でその品質を見抜ける」と語る。各業界のプロフェッショナルが閲覧するような仕組みを構築すれば、バーチャルイベントにより、大企業に限らず優れた製品やサービスを持つ企業がクローズアップされる可能性が出てくる。
ちなみに、玉木氏のテーマは「日本の中小企業の国際化」だという。日本の中小企業の多くは大企業の下請け会社であるのが実情だが、折からの経済不況により、日本の大企業の業績が停滞した。しわ寄せを受ける形で、中小企業の収益力が急速に悪化している。
一方で現在、中国などの東アジア企業が、こうした中小企業の優れた技術を「のどから手が出そうなほど欲しがっている」(玉木氏)。日本の中小企業の技術力や製品、サービスをこうした新興国に説明するためには、バーチャルイベントの仕組みが適している。
弱体化する日本企業のてこ入れ、特に中小企業の収益構造を抜本的に改善するというテーマを掲げ、それを実現するための1つのツールとして、同氏はバーチャルイベントのビジネスを開始した。中小企業の貴重な技術情報が流出するという側面は踏まえる必要があるが、バーチャルイベントなどをきっかけに日本の中小企業の業績が改善し、経済全体に活力が戻るなら悪い話とばかりも言えない。
ビジネスアプリケーション最大手のSAPは、年次イベント「Sapphire Now」を5月17日からドイツのフランクフルトと米フロリダ州オーランドで同時開催している。会場では、テレビ会議システムを使い、2つの会場をまたがったパネルディスカッションを開催した。
SAPは現在、2人のCEOが経営を担う共同CEO制を敷いており、SAPの今後の製品戦略やユーザーの声などをリアルタイムに連携させた。Twitterを通じて世界中から寄せられた質問にも随時答えるようにし、地球規模のイベントを演出。来場者に距離の隔たりを克服したかのような錯覚を起させた。
2日目の5月18日は、元米副大統領のアル・ゴア氏がオーランド会場で講演。CO2削減の重要性と、それを実現するためにITが大事な役割を担うと力強く話した。講演の終わりにはフランクフルト会場からも大きな拍手が起こったことも、米国と欧州をまたいだ一体感の醸成を裏付けた。
Zazzleのビジネスモデルしかり、バーチャルイベントしかり、従来の概念をインターネットに置き換えただけではなく、インターネットの特性を最大限に活用した上で、さらに新たな要素を投入している。インターネットビジネスを一歩進化させることに成功している。
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