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顧客という資産を生かすラストワンマイルの経営――新出光 出光泰典社長石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/2 ページ)

ガソリンを売るためのサービスステーションが、地域の人が必要とするものを提供するサービスステーションに生まれ変わろうとしている。「ユーザーと直結したビジネスを忠実に行う」新たな業態が生まれるかもしれない。

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石油業界の不思議

 石油が枯渇すると言われて久しく、再生可能エネルギーの開発も盛んであるのだから、世界は脱石油の方向に向かっているのは間違いありません。しかし、先日も、メジャーと言われる海外資本であるエクソンモービルやロイヤル・ダッチ・シェルが過去最高益を出したというニュースが流れてきました。どうやら、石油産業の構造は見た目ほどには簡単ではないようです。一口に石油産業と言っても、プレーヤーの立場はさまざまでそのパワーゲームは熾烈です。そして、脱石油に向けた将来の戦略ももちろん、そのポジションにより違ってきます。

 今回は、石油産業で最も消費者に近いSS(サービスステーション)の大手、新出光の代表取締役社長にこの6月に就任した出光泰典さんに、石油産業の現状とその構造、そして、転換期の戦略と業界の変革について伺います。業界の若きホープの話からは、一見、弱いポジションである小売のSSが、実は限りない資産があることに気づかされました。改革は始まったばかりです。


新出光 出光泰典社長

業界の分かりやすい常識

 石油枯渇か。その問いにはあっさりと「YES」。やはり、大きい油田を見つけようとしても見つからなくなっているのは事実なのです。生産がピークアウトする、少なくとも安価で取り出しやすい石油が減っているのは間違いないらしい。

 この枯渇が意味するところは、産業内のポジションにより大きく異なります。石油産業のプレーヤーは大きく3つに分かれます。いわゆるメジャーと言われるのは最も川上に位置するプレーヤーで「石油を掘る」ことです。これは残念ながら、ほぼ海外資本で占められています。日本では、石油産業は低迷しているが、エクソンモービルやロイヤル・ダッチ・シェルが最高益を上げた理由は、中国などの新興国での需要が大きくなっているため、グローバルに見れば枯渇どころか当面は成長産業なのです。もちろん、これら上流プレーヤーの弱みは、供給する石油がなくなること。中長期に見れば唯一の資産=石油がなくなるのですから、戦略のみならず資産の転換を余儀なくされています。

 中間に位置するのが、日本では元売と呼ばれるJXや昭和シェル、出光興産などです。主な業務は石油の精製で、販売面では卸の役割を果たしています。そして、新出光のようなSSは最も川下に位置しており、消費者へのラストワンマイルです。

SSの地位を変えた環境変化

 SSにとって、ビジネスを取り巻く環境変化は過酷でした。まず、昭和の終わりから段階的に石油の自由化政策がとられました。それまでは、電力やガス同様に、地域にいくつとSSの数が決められていましたが、その規制も廃止されました。自由化による競争は価格競争を引き起こし、その結果、多くのSSが廃業に追いやられました。ピーク時に6万店もあったSSの数はいまやその半分です。地域を支える店舗の役割を担っていましたが、約4万3000件あるコンビニに数で抜かれています。

 これに輪をかけたのが、元売の合併です。元売が寡占状態になり、SSに対してのバーゲニングパワーを強めています。元売は、メーカーであるメジャーからの価格の引き上げをそのまま価格に載せてくる。卸の仕切りルールが変わったのです。

 以前の元売とSSは、SSが販売量によりディスカウントが受けられるWin-Winの関係でした。しかし、自由化により、業界のスルーマージンが減り、元売もSSも独立して稼ぐ構造を強いられます。自由化は顧客にとっては朗報に見えましたが、上流の価格転嫁の構造は変わらず、結果的に川下のSSが値上げを避けるために自助努力をせざるをえませんでした。体質強化を図ろうにも、コアビジネスの原価が上がり苦しい経営を強いられています。

IDEXの名のとおりガソリンでなくエネルギーとクルマ

 この業界構造を見ると、川下のSSが最も苦しく、改革は容易ではないように思えます。しかし、出光さんによれば、このラストワンマイルに最も大きなチャンスがあります。

 新出光はグループ名を「IDEX」としました。ここには、新出光が最も大事にしている顧客への思い入れがあります。IDEXは、その文字の配列どおり、D=ドライブとE=エネルギーが中心。そこにはガソリンの文字はありません。ガソリンはあくまでアイテムであり、主軸はクルマなのです。

 売上の9割以上、利益の8割以上を石油に依存する新出光。48歳の出光さんは、15年後の100周年には、ポートフォリオを石油と非石油で50:50にすることを目標に掲げています。自ら石油のビジネスを縮小することはしないが、今まで当たり前のようにSSに投資された資金を非石油に投資していきます。

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