スキルは増やすな、呼び覚ませ:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)
大事なことはスキルを増やすことではなく成果を高めること。ハイパフォーマーな人や組織と、そうではない人や組織の違いはスキルよりも基本の差にある。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
せっかくの機会なので、著書の抜粋などについては割愛し(ご興味があればAmazonで目次などをチェックして下さい)、リーダーである皆さまに自分が言いたいことを伝え、意見をいただければと思います。
成果の差を生み出す基本能力の差
わたしの仕事は、クライアント企業、社員の成果、成長を支援することです。
仕事の成果は個人であれ、組織であれ、「差異化された専門性×専門性を発揮する基本能力」という掛け算で表すことができます。
そしてわたしの重要な提供価値のひとつが、個人や組織の基本能力の見極め、つまり、成果、成長の差を決定的に生み出すコア(核)を特定することにあります。
ハイパフォーマーとそうでない人、組織の違いについてもずっと考えてきました。
経験を積み重ねてきて分かったことがあります。それは、成果の差を生み出すコア(核)となる基本能力は論理的思考や定量分析力といった、いわゆるスキルではないということです。そんなことよりもずっと根底にある、いわば「当たり前」のことなのです。
例えば、
- 自分の役割の本質を理解する
- 顧客の求める価値が何であり、どう変化しているかを理解する
- 大事なことから考える。すなわち、手段よりも目的、部分ではなく全体から考えて仕事に取り組む
- 物事を俯瞰し、自分を客観視する
- 常に振り返りを行い、次のチャレンジに生かす
- 「一貫性がありながら柔軟」といった対極性を持つ
といったものであり、これらを自然にしかも深いレベルで実践されていることが「成果が出てしまう人の習慣」です。
個人レベルでいえば、成果が出てしまう人はたくさんのスキルを持ち、知識を知っている、「インプット」タイプの人ではありません。限られたスキルを役割や目的に応じて活用することのできる「アウトプット」タイプの人です。
会社レベルでいえば、経営理念やビジョンを深いレベルで理解し、共有し、行動として体現できる組織です。一人ひとりの専門性のレベルは高くても「理念やビジョンなんて所詮スローガンだ」と社員が思っている組織の成果には、おのずと限界があります。
余談ながら「会社の理念なんて仕事と直接関係ない」と思っている人はいませんか? そうだとしたら、本当に意味のない理念が掲げられているか(本当にそうならその会社、この先結構大変かもしれませんよ……)、本人の理解力(つながり、共通点を見出す抽象化能力)がやや欠如しているかのどちらかでしょう。
ハイパフォーマーな会社の能力開発
ハイパフォーマーとそうでない人、組織の違いは、わたしが携わる育成や能力開発の面でも顕著に表れます。
失礼ながら、「そうでない」と思われる会社の取り組みは、わたしの目にはきわめて自己満足的に映ります。せっかく行う研修においても、「普段はなかなか勉強する時間が取れないから、この○日間で集中してスキルや知識を学びましょう」といった内容になりがちです。これは個人レベルでいえば、せっかくの休日に、仕事と関係のない資格試験の勉強をするようなものです。
成果につながる基本能力よりも、一般的ビジネスパーソンが一通り持っているスキル(それ自体が半ば幻想です)の装備に心血を注ぐこうした会社は、まだまだあります。そうした様子が見受けられるクライアント会社に対しては、半年、1年、2年とかけて本当に重要なことは何なのかを粘り強く語りかけるようにしています。
一方、厳しい競争を勝ち抜いているハイパフォーマンスな企業の育成担当者から受ける依頼は、例えば、「専門性だけで何とか仕事をやろうとしている社員に、仕事に対する考え方といった基本中の基本がいかに重要かを思い知らせ、行動化・習慣化できるようにしたいのです」「スキル研修の体をとっていますが、仕事と関係ないスキルで頭でっかちになるのは本末転倒だと分かっています。自分はその程度のスキルはできているはずだと捉えている参加者に対し、改めて当社の理念と必ずリンクして考えさせることで、なぜそのスキルが重要なのか、いかにレベルが足りないかを気付かせてほしい」といったものです。
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