「間違いだらけのビジネス戦略」が読み解く2015年のビジネス・シーン:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)
家電小売りのガリバー ヤマダ電機が、昨年までの不調から一転して好調な業績になった理由はどこにあるか。それは、経営戦略の転換である。
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ヤマダ電機が11月5日に上期の業績を発表した。好調であり、様変わりした。15年4〜9月期の半年間で売上げこそ8047億円と、昨年同期比で微減(-3.4%)したが、営業利益は207億円(昨対3.6倍)、経常利益は249億円(昨対2倍)を叩き出した。結果、対売上げ営業利益率は2.8%、同経常利益率は3.1%と回復している。
上期の好調を受けて、通年となる16年3月期の連結業績見通しも、純利益が前期比3.5倍の331億円に、営業利益は同3倍の607億円と大幅に上方修正した。経常利益も同90%増の675億円と、従来予想から168億円積み増す。年間配当も前期から8円増やし14円とする。
この、年商1兆6千億円を超す家電小売りのガリバーが、昨年までの不調から一転して好調な業績を見せた理由はどこにあるのだろうか。それは、経営戦略の転換である。
5月末に同社は46店舗を閉鎖した。5月25日に発表した時点ですでに3店舗を閉鎖済みであり、残りの43店舗については発表直後の閉鎖となったため、地域の消費者や従業員を驚かせた。
年内に新規出店を行う予定もあったので、ヤマダ電機としては「店舗のスクラップ&ビルド」だとした。閉店するのは、テックランドNew江東潮見店(東京都江東区)、同名古屋南丹後通り店(名古屋)、同枚方店(大阪府枚方)、同新南陽店(山口県周南)など地方や郊外にある不採算店が中心。これまでの拡大路線を転換し、東京・八重洲など都市部の大型店や免税専門店といった収益力の高い店づくりに注力するとした。
多店舗戦略の大転換
日本全国津々浦々に家電の大型量販店舗を展開する。自社だけの店舗展開だけでは間に合わなければ、業界他社をM&A(合併&買収)して「マーケット・カバレッジの最優先」という戦略を徹底する。これが従来のヤマダ電機の「勝てる王道戦略」だった。その結果、15年3月期末での店舗数は1016店舗までに達していた。
この多店舗戦略に限界が来ていて破綻していることを、私は以前指摘していた。
「日本に“市”は790ある(2008年時点、以下同)。市となる要件のひとつは人口3万人以上で、つまりヤマダ電機は日本のすべての3万人以上の地域市場に出店を終えてしまっているということだ。ちなみに人口5万人以上の都市数は541にすぎない。ヤマダ電機の1店舗当たりの平均年商は19億円程度ということになるが、3万人規模の市には1万世帯くらいが生活すると見て、それらの商圏で全世帯が年間にヤマダ電機の店舗で19万円程度の消費をしているという計算が成り立つ」(2014年12月1日付拙発表記事より)
業績低迷について、ヤマダ電機の山田昇社長の悩みは深かった。連結の年商は11年3月期に2兆1500億円とピークを記録しわが世の春を謳歌したが、その後は減少の一途。15年3月期では売上高1兆6643億円(前年同期比12.1%減)、営業利益199億円(前年同期比41.9%減)、経常利益355億円(前年同期比29.2%減)という結果に沈んでいた。
拙記事が目に留まったとも伝えられるのだが、山田昇社長は5月21日に朝日新聞のインタビューで「出店余地はもう無く、ビジネス・モデルを変えないといけない」と語っており、スクラップ&ビルドは明確な戦略転換だと認めている。つまり全社経営戦略の本格的な変更による電光石火の大量店舗閉鎖だったのだ。そんなことができるのは、創業社長である山田氏ゆえだろう。
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