【第1回】CIOが退職 その時CEOの決断は?:CEOとCIO――2つの顔を持つと言うこと
カナダのスポーツ用品チェーンのフォーザニのCIOが退職した。CEOは後任者をすぐに任命しようとしなかった。取締役会も疑問を呈したが、CEOは拒み通した。フォーザニのCEOはなぜそう決断したのか?
2006年7月、フォーザニグループのデビー・ギリス氏は上司のボブ・サーター氏のオフィスに赴き、会社を辞めて転職する旨を伝えた。ギリス氏はカナダのスポーツ用品チェーン最大手の同社で、ほぼ5年にわたってCIOを務めていた。フォーザニは幾つかの新システムの導入を完了したところだった。ギリス氏はCEOのサーター氏に、新しいキャリアを積もうと思っていると話した。
ギリス氏は辞意を伝えに来たその日付けで退職を命じたられた。「機密のデータや数字にアクセスできる立場の社員は、退職を願い出た日に辞めなければならないことになっている」(サーター氏)
しかし、CEOのサーター氏は即座に後任者を任命しなかった。真っ先にIT部門の幹部をCIOに昇格させることを考えたが、自分がIT部門のことを知らないことに気付き、思い直したのだ。
「CIOのギリス氏を非常に信頼していたために、IT部門をよく知らずにいた。わたしはもっぱらCIOとしかやり取りしていなかった」
サーター氏は、IT部門と密にコミュニケーションを取りながら、IT部門がどれほどビジネスを理解しているかということを知っておく必要があったのだ。IT部門のメンバーをCIOに抜擢したいのはやまやまだったが、今はその時期ではないと考えた。IT部門のスタッフのビジネスセンスがまだ分からなかったからだ。
「ヘッドハンティングすれば楽だろう。だが、主要メンバーの実力を、しっかり評価したかった」(サーター氏)
そこでサーター氏は、暫定的にCIO“代理”の職に就くことを決断した。
テータムコンサルティングのパートナーで、CIOとCEOの両方を務めた経験があるダン・ギングラス氏は、この2つの職を兼ねることには懐疑的だ。
「素晴らしいことではある。わたしの知る限り、サーター氏の決断は、深刻な状況が発生したという事例を除けば、CEOがCIOの業務を徹底的に把握しようとする初めてのケースだ。ただ、誰でもITを統括できるという考え方につながりかねない面があり、そこが懸念される。極端に言えば、自分で自分の心臓手術をするようなもの。勧められることではない」
フォーザニの取締役会も疑問を呈し、CIOのポストには別の人をあてがうことをサーター氏に促した。サーター氏は、その時のことをこう振り返る。
「CIOを採用するようにプレッシャーをかけられた。『君にはCIOが必要だ』と言われた。それを、こう説得した。『分かっているが、誰がビジネスリーダーとして適任かを見極めさせてほしい』と」
そこで、サーター氏は、2007年の予算を作成した際、CIOの給与を考慮しなかった。腰を据えて人選に当たるには時間が必要だったからだ。
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