リコーの経営危機を救った秘策「シグマ-E」(1/2 ページ)
製品のデジタル化が進む中で、製造コストを十分に削減できなかったリコーは1991年、営業赤字を計上した。この危機を脱する方策はITを駆使した経営改革だった――。
大手OA機器メーカーのリコーは経営危機に陥った時期がある。情報化の進展に伴い製品のデジタル化が着々と進む中で、複写機の製造コストを十分に削減できなかったことが直接の原因だ。1991年には営業利益で赤字を計上――こうした危機的状況を乗り越えるための方策こそ、ITを駆使した経営改革であった。
「製品ラインアップの整理や不採算事業の見直しなど、あらゆる緊急処置を行った一方で、こうした状況に陥らない仕組みも不可欠と考えた。そのために整備したのが、部品情報を活用するための“シグマ-E”だった」
ガートナー ジャパンは11月28日、「ビジネスとITの融合」をテーマにしたイベント「SYMPOSIUM ITXPO2007」を開催。その基調講演で、リコーで取締役専務執行役員を務める遠藤紘一氏は、業務改革におけるITの位置付けをこう説明した。
部品情報の共有により調達の高度化を支援
遠藤氏がシグマ-Eの整備に乗り出したそもそもの狙いは、電子部品の調達業務の高度化だったという。
一般に、複写機などの製品を構成する部品は何百点にも上る。あらゆる部品のコストを事前に洗い出すことは物理的に困難を極める。そこでリコーでは、過去、製品開発にあたって過去、妥当とされるコストを設定し、最終的にそれに近づけるかたちで製品化を進めることで製造コストの調整を図っていた。
だが、製品のデジタル化が進み、デジタル用部品の占める割合が増えたことで、仮定したコストを達成できないケースが従来よりも格段に増えることになったという。アナログ部品と比較し、デジタル部品は価格の値動きが激しく、予想を上回る高い水準で価格が推移してしまったからだ。
「製造コストを適切に調整するためには、コストも踏まえて最適な部品を調達しなくてはならない。そのためには、試作段階ではなく、設計段階にまで遡って部品を選定できる環境を整備しなくてはならなかった」(遠藤氏)
一方で、ある部品の供給が中止された場合には、代替部品を探すことで対応を図っていた。だが、その際には再評価作業などにまつわる無駄なコストが発生し、開発期間も長引くことになっていた。
こうした問題を抜本的に解決したのが「シグマ-E」である。その特徴は設計段階でも情報が活用できるよう、利便性の高いデータベース(DB)が実装されている点にある。つまり、より川上までサプライチェーンの範囲を拡大したわけだ。
DBを構築するにあたり、リコーは抜本的な取引先の見直しを断行。具体的には、部品供給の打ち切りという事態を回避するために、今後も継続的な供給が見込まれる部品や、機能性の高い部品のデータだけを過去のDBから引き継ぐとともに、部品ベンダーを約350社から約40社にまで絞り込んで集中発注できる仕組みを整備したのだ。
この結果、部品点数が大幅に絞り込まれたことで、設計段階における部品の選定作業の大幅に効率化が実現。設計段階から製造コストをシビアに管理できるようになるとともに、より短期間に量産までこぎつけるようになった。一方で、集中発注体制が整ったことで、部品ベンダー1社あたりの発注が増え、部品ベンダーから好意的に受け止められた。
「データベースには近い将来、提供されるであろう電子部品の情報も格納されている。それらを参考にすることで、いわば“旬”を見極めて最適に調達することが可能になった。また、DBでは世界中の部品の価格情報も管理しており、それらを参考に調達先を柔軟に変更することで年間数億円のコスト削減という副次的効果も表れている。環境汚染物質の有無も判断することが可能なのだ」
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