カネをドブに捨てるプロジェクトの責任はトップにある:間違いだらけのIT経営(3/3 ページ)
「ITは分からない」という理由で、導入の失敗の責任をトップが免れることはできない。効果の見えない導入があまた発生している現状を解決していくのは、トップの仕事である。
トップは最終目標、終着点をみすえよ
有効に使うためには、トップはITを正しく理解し、適切に関与しなければならない。それは、トップがITの技術的知識を身につけること、深く干渉し過ぎることを意味しない。
トップは、次のことを理解し、関与の仕方を学ぶ必要がある。
企業の生産性を向上させ、企業戦略を実現させるための手段としてITがあること、そのIT導入を成功させるためには、明確な方針を示すこと、また避けて通れないIT成功条件が幾つかあり、例えば優秀な人材の確保・意識改革・業務部門の協力などの条件を一つひとつ突き詰めていけば、全てがトップの姿勢にかかわる問題に収斂すること、さらにいざシステムを構築し運用するに当って、その進度状況、効果実現状況などの重要ポイントをチェックしなければならないこと、そして必要な対策の手を打つこと、などだ。
これらを理解するために、トップはIT関係書(参考図書として次を推薦する。「ITポートフォリオ戦略論」ピーター・ウエル他著 ダイヤモンド社。また拙著「IT導入は企業を危うくする」増岡直二郎 洋泉社 もトップとITのかかわりについて詳しく説明している)を紐解いたり、厭わずに関係者と議論をしたりすることに努めなければならない。そのために企業のために潔く自尊心を捨てて、部下と語るべきである。そして、その志を継続して維持しなければ、単発では意味がない。
導入の現場ではどうしても、正しく稼働すること、ユーザーが要求することがシステムに織り込まれていることなどに意識が注がれてしまい、いわゆる「近視眼」的になってしまう。トップは導入の最終目標、戦略に則ったプロジェクトの終着点を関係者に浸透させ続ける必要がある。
適切な関与とは、「IT我関せず」は論外、 「過剰関与」も問題だ。某社のパソコンオタク的トップは、IT導入プロジェクトが思い通りに進まないのに業を煮やし、プロジェクトに入り込むや、アウトプットフォーマット設計までに口を挟んだ。その結果、プロジェクトメンバーは手を引いて指示待ち族になり、完成したシステムに不具合があっても誰も口をつぐんだ。好例として、システム部門に経営者対象のIT勉強会を計画させた某トップは、ITに関心を持つようになり、IT導入方針を明確に打ち出すとともに、システム部門などの関係者を呼んで、週1回のフォローアップ会議を持つようになった。
加えて、適切なCIOを任命することも、トップの重要な任務である。トップとともに、プロジェクトの最終目標を決してブレることなく発信しつづけ、決断していく人物であるかどうか、見極めていかなければならない。
ますおか・なおじろう
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)
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