【第5回】世にもおかしな日本のIT組織(5)〜社長が海外出張、決裁書止まります:三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時(2/2 ページ)
どうして決裁書、報告書は紙のままで回付され続けるのか。承認されるまで通常で2週間、長いものでは2カ月も掛かる。ビジネススピードが勝敗を分ける時代に、本当に「紙と判子」で世界と戦えというのか。
誰もが気付いている非効率な仕事の仕方
このやり方に時間が掛かりすぎていることは、実は誰もが気付いている。そこで何とかこの時間のかかる書類の回付をなくそうと導入されたのが、欧米から輸入されたワークフローシステムである。しかし、このワークフローシステムはどうも日本企業ではスピードアップの材料にならないのだ。書類の回付よりも時間が掛かってしまうのだ。
もともとワークフローシステムというのは、北米の企業文化をモデルにパッケージソフト化されたものである。ワークフローに限らず、ほかのソフトウェアでも同じようなギャップを生んでいるが、欧米の仕事スタイルをそのまま日本企業に輸入してきても、やっぱり企業文化が違うというのが実際だ。
ステレオタイプに思われるかもしれないが、日本企業はやはり集団合意型、運命共同体型で、呉越同舟的な人間関係を明らかに重んじている。一方、欧米は権限・ミッションが明確化している完全なトップダウンマネジメントである。この企業文化のギャップがワークフローシステム定着の阻害要因になっている。
いつまで紙と判子で世界と戦えというか?
ワークフローシステムが持つ基本的な承認経路は「起案」→「検査/確認」→「承認/決裁」の3段階である。極端に考えれば、すべての承認フローというのはこの3段階で完結するはずだ。欧米スタイルのワークフローも実際、この3段階が基本になっている。
欧米では、承認を遅らせることは承認者の職務怠慢とされ、責任が問われる。さらに欧米のビジネスパーソンはノートPCを持ち歩くのが当り前で、ネットワークさえつながればどこでも承認したいと思っている。
ところが、日本企業はというと、
「社長が海外出張に行くから、その間2週間は決裁書が止まります」
こういう社内通達が本当に流れる。
日本企業のオフィスでも1人1台のPCが提供されるのは当り前になった。「Wordできれいな書面を作る」「Excelで売上実績を集計する」「電子メールを送る」「基幹システムの端末として使う」「インターネットで情報収集する」――など、確かに以前に比べれば仕事の生産性は向上した、ように見える。しかし、相変わらず紙を媒体にした意思決定が主要な業務連携のやり方なのだ。そればっかりは変わっていない。
「出張する時は必要な書類をプリントアウトして持っていけばいい。それで十分事足りる」のである。いや、本当にその方が、紙と鉛筆があれば仕事ができるという環境で長年仕事をしてきた経営者にとっては生産性がいいのだろう。
欧米の経営者はタイプライター文化で育ってきただけにPCでの執務にも抵抗が少ないと言われる。とはいえ、このビジネススピードが勝敗を分ける時代にあって、本当に紙と判子の文化で世界と戦えるのだろうか。
残念ながら、日本と欧米の経営者のITリテラシー差はまだまだ埋まりそうにない。
プロフィール
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 協創企画推進室 岡 政次(おか まさじ)
三重県出身1959年生まれ。1977年シャープ株式会社に入社。本社IT部門に在籍、10年強の新人教育、標準化・共通システム化を担当。さらにシステム企画担当として、ホスト撤廃プロジェクト、マスター統合、帳票出力基盤の構築等に携わる。2007年4月、ウイングアークテクノロジーズ株式会社に入社。現在、経営・エンドユーザー・IT部門の「三方一両“得”」になるIT基盤構想を提唱し、「出力HUB化構想」を推進する。
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