検索
連載

コンテンツを世界に売れる“目利き”がいない?――進出を阻む深刻な人材難岐路に立つ日本のコンテンツ産業(後編)(2/3 ページ)

日本のコンテンツ産業は、果たしてグローバル化を推進できるのか。その壁といえるのが“人材”にほかならない。では、壁を乗り越えるための方策とは? 経済産業省の井上悟志氏に話を聞いた。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

コンテンツ産業の育成には“目利き”の存在が不可欠

――日本のコンテンツ産業の強みとして、「マルチコンテンツ力」や「技術力」、「資金力」を挙げていましたが、現実には金融機関などから資金を調達しているケースは、まだごく一部に限られているようです。

井上 確かに、そうした機運がまだ盛り上がりに欠けているのは事実です。その背景には、コンテンツを評価できる“目利き”の育成が遅れているという事情があります。投資すべきかどうかを判断できる人材の絶対数が不足しており、最終的に企業として投資を見送らざるを得ないのです。米国の映画産業がさまざまな案件に投資できたり、ヒットが見込めそうな作品を効率的に発掘したりできるのも、目利きを育成できているからこそです。

 そこで今、コンテンツ業界で強く求められているのが、コンテンツの評価スキームの確立です。実は米国では、この分野で日本よりはるかに先行しており、売れるコンテンツについての要素が科学的に研究され、データとして蓄積されています。もちろん、ヒットするかどうかを確実に予測できるわけではないですが、評価スキームを利用すれば作品がどれほど売れる可能性があるのか、その目安を知ることができるはずです。

 実は今回のワーキンググループを通じて「日本のコンテンツ産業では、根拠のない思い込みや主張によって作品が製作されている」との指摘がある委員から寄せられました。各種のデータを基にした科学的なアプローチが欠如しているというわけです。もちろん、なかには職人のように感覚的に正確な判断を行える人もいるでしょう。しかし、それではスキルの移転は難しい。

ビジネスを前提とした“割り切り”が不可欠

井上 これに対して、評価スキームが固まれば、目利きのスキルを十分に備えていない人材であっても、評価スキームの結果を踏まえて、ある程度のレベルの判断を下せるようになるはずです。また、そうした活動を通じて人材のスキルを養えれば、既存の作品の作り方も変えることができるのではないでしょうか。

――と言いますと?

井上 コンテンツ産業はクリエーターが主導するかたちで、これまで成長を続けてきました。そのため、コンテンツの製作はクリエーターの自己表現の一手段という側面もあるわけです。実際に、会合を通じて「コンテンツは産業ではなく文化なのでは」との疑問が委員から寄せられるなど、この考えは広く浸透しています。

 ただし、産業の育成という観点で考えれば、他の産業と同様に、顧客の嗜好や費用対効果なども踏まえて、ある意味ビジネスと割り切って各種の判断を下さなくてはならない。そう考えると、クリエーターにコンテンツの製作すべてを任せるのではなく、プロデューサーがクリエーターなどの関係者と連携し、よりヒットしそうな作品に仕上げられるような作品作りが不可欠なのです。

――クリエーター個人に作品作りすべてを任せるべきではない?

井上 クリエーターにビジネスまで考えさせるのは酷な話なのではないでしょうか。やはり、質の高い作品に仕上げるためには、クリエーターには制作に没頭してもらわなくてはならないのですから。だからこそ、プロデューサーの手腕がこれから強く問われるようになるはずです。もちろん、戦略的に作品の権利を活用するための仕組み作りも求められます。その際には、スポンサーから資金を調達するだけではなく、作品を売り込むにあたっては経済的価値を最大化するためにクライアントの側に立ち交渉を行う、いわば代理人も見つけ出さなくてはならない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る