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技術情報を無償公開したMSの深謀遠慮トレンドフォーカス(1/2 ページ)

MicrosoftがOSなどの技術情報を無償で公開する方針を発表した。背景には、独禁法問題への対処やオープンソースの台頭などが影響しているとみられるが、最大の眼目は、より多くの優秀なITエンジニアを“味方”につけたいということだろう。逆に言えば、今回の動きはそこにおける同社の強い危機感の表れとも見て取れる。

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3万ページを超える技術資料をサイトに掲載

 「Microsoftが今後も長期にわたって成功するためには、オープンで柔軟な技術基盤を提供する必要がある」

 米Microsoft(MS)のスティーブ・バルマーCEOは2月21日の電話会見で、今回の技術情報の無償公開に踏み切った狙いをこう語った。ソフト市場で強大な支配力を持つ同社は、これまで欧米の独禁当局から技術の閉鎖性を指摘されてきた。今回の戦略転換はその対処もさることながら、ITの主戦場がパソコンからインターネットにシフトする中で、王者といえども変化を迫られた形だ。

技術情報の無償公開に踏み切った米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO。写真は昨年11月の来日会見
技術情報の無償公開に踏み切った米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO。写真は昨年11月の来日会見

 同社が公開した技術情報は、「Windows Vista」「.NET Framework」「Windows Server 2008」「SQL Server 2008」「Office 2007」「Exchange Server 2007」「Office SharePoint Server 2007」といった企業向け製品の通信プロトコルやAPIに関するもの。発表と同時に同社サイトで3万ページを超える技術資料を掲載し、今後も主要製品については同様の方針で情報を公開するとしている。

 これらの情報はこれまで、MSとライセンス契約を結ばなければ入手することはできなかった。しかし今後は、競合他社やオープンソースのソフト開発者もこれらの情報を自由に閲覧し、自らの開発作業に生かすことができるようになる。MSは、公開した情報に基づいて開発されたソフトの自由な配布も保証しており、同社が特許を持つ技術に関しても低料金でライセンス供与するなど、知的財産面でも大幅に譲歩した。無償OSの「Linux」のように製品の設計図に相当するソースコードを公開したわけではないので、競合他社がMS製品と完全に互換性のあるソフトを開発するのは難しいものの、「MS製品と密接に連携するソフトをつくりやすくなるのは確か」というのが、業界関係者の共通の見方だ。

オープンソースのソフト開発者にも朗報

 では、MSはなぜ今、技術情報の公開に踏み切ったのか。きっかけになったのは、昨年秋に欧州司法裁判所から独禁法違反の判決を受け、欧州連合(EU)欧州委員会との間で、EUの求めに応じて技術情報を提供することなどで合意していた動きだ。「独占的な立場を乱用している」との同委員会の批判を和らげる狙いがあることは確かだろう。同委員会も今回のMSの対応については、「完全な公開へと向かう動きは歓迎する」との談話を発表している。

 それもさることながら、今回の戦略転換でMSが最も注視したのは、ソフト市場の環境変化への対応にあるとみられる。なかでもオープンソースの台頭、SaaSに象徴されるソフトのネットサービス化といった動きに対する深謀遠慮があったものと推測できる。

 今回、MSが発したメッセージには、ソフト開発者にとって非常に重要な意味が込められている。それは、商用目的でないソフトならば、同社が持つ特許の無償利用を認めたことだ。これによって例えばオープンソースのソフト開発者にとっては、知らぬ間にMSの特許を侵害し、巨額の賠償請求を受けるといった懸念から解放される形となった。この問題は、オープンソース陣営にとって長年の“アキレス腱(けん)”ともなっていた。そうした懸念をMS側から不問にしたところに、同社の戦略転換における意図が見て取れる。

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