【第1回】カジノ運営を手掛ける企業の壮大な取り組みとは?:消費電力と闘うCIO
電力不足が深刻さを増す一方、企業のデータセンターはこれまでになく電力消費を拡大させている。さまざまな企業が新しい技術を利用して、いかにエネルギーコストを抑え、グリーンITの時代に備えているかその現状とノウハウを紹介しよう。
今後5年で電力需要は倍増
2年前、ヴィージャス・エンタープライズのCIOモティ・ヴィアス氏配下のITスタッフが狭苦しいサーバ室で一番手近なコンセントに新しいサーバをプラグインしようとしたところ、施設管理部門から緊急連絡が入った。電気を使いすぎると注意されたのだ。新しいサーバを冷却するためには、もっと多くの電気が必要だったにもかかわらず、サーバ室の電力消費は容量をオーバーしつつあった。
カリフォルニアでカジノやエンターテイメント施設を運営する同社は電力とスペースを得るべく、新たにサーバ室を増設した。しかし、それは壮大な計画を前にした一時的な対策にすぎなかった。同社はその後、数百万ドルを投じ、省エネタイプのデータセンターを建設したのだ。「新しいデータセンターの構築に向かった要因には、ビジネス的なものと技術的なものがあった」とヴィアス氏は語る。「ビジネス的要因は、今日のビジネスをサポートし、明日のニーズに備えること。技術的要因は、ブレードサーバや仮想化、セキュリティ、将来の拡張性に備えて電気、空調を確保することだった」
ほかの多くのCIOと同様、ヴィアス氏もサーバ室を拡張する必要性に迫られたとき、エネルギー問題という大きな壁にぶつかった。米環境保護庁(EPA)の推計によると、米国内のデータセンターは昨年、全体で600億キロワット時、コストにして45億ドルの電力を消費した。その多く(場合によっては最大60%)は、サーバを冷却するためのものだった。すでにデータセンターは米国の総電力消費量の2%を占め、当然のことながら、それに伴う大量の二酸化炭素を排出し続けている。
教育コンサルティングサービスのプロバイダ、アップタイム・インスティテュートによると、こうした数字は1999年から2005年にかけて40%近くも増加するなど、近年急上昇しているという。そして今後5年間で、電力需要は現在の2倍、1000億キロワット時を超えるというのがEPAの試算だ。
企業の90%以上が電力不足に直面する
「データセンターの血液ともいえる電気の需要は増加の一途をたどっている」と語るのは、EPAの「エナジースター」プログラムチームリーダー、アンドリュー・ファナラ氏だ。1992年にスタートした同プログラムは、コンピュータのハードウェアなどの省電力化を推進するためのラベリング制度で、一定の基準を満たした製品には「Energy Star」ロゴマークの使用が認められる。「需要が増加すれば、価格は上昇する。すでにその兆候は現れており、おそらく電気料金は今後さらに上昇するだろう」とファナラ氏は予測する。
こうした数字にピンと来ないなら、データセンター責任者の団体「AFCOM」が目を覚まさせてくれるに違いない。AFCOMは、今後5年間で全企業の90%以上が停電や電力不足によりデータセンターの稼働中断を余儀なくされるだろう、と警告しているのだ。また市場調査会社のガートナーも、2008年までにIT責任者の半数がデータセンターを稼働させるのに十分な電力を確保できなくなると予測している。こうした状況を正しく認識し、コンピューティング需要の増大に対応可能なスペースと電力の確保を図ることが、今後ますます重要になってくるのだ。
ヴィアス氏はこの深刻な問題を正面から見据え、6カ月かけて調査を行い、省エネタイプのデータセンターを設計した。計画段階では、ビジネスケース分析から電力供給、ローカルの天候まで、あらゆる要素を検討した。もちろん最新の技術も、新しいデータセンターで重要な役割を担う。「ブレードサーバと仮想化という新しいパラダイムは、空調から電力要求まで、従来の設計思想を根底から変更してしまった」とヴィアス氏は言う。
ヴィージャス・エンタープライズは現在、ミッドマーケットで最もエネルギー効率に優れたデータセンターの1つを運用している。平屋建てのデータセンターは、ブレードサーバと仮想化に適した構造になっており、高密度なコンピューティング環境を実現している。また、慎重に検討されたレイアウトと空調システムにより、サーバは効率的に冷却されている。バックアップの発電装置も万全だ。データセンターにはローカルの電力会社から別系統で2本の電線を引き込んでいる。「それらの電源が落ちても、ただちにUPS(無停電電源装置)に切り替わり、数秒後に発電装置が立ち上がる」とヴィアス氏は説明する。
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