国連環境計画・金融イニシアテイブ(UNEPFI) 特別顧問 末吉竹二郎氏は、早稲田大学で講演し、「一国の政権や国際政治の意志決定に環境問題が大きな影響を及ぼす時代となっている。世界の世論が環境への配慮に対して厳しい目を持ちはじめており、これが背景となって、ビジネスの世界でも無視できないうねりとなっている」として、地球環境問題が経済、政治まで幅広く影響するという時代の変化を訴えた。以下はその講演内容の一部をまとめたものだ。
地球温暖化問題は政治を動かす重要な要因
地球温暖化問題は、すでに政治の問題にもなっている。例えば、2007年11月に行われたオーストラリアの選挙は、初めての気候変動選挙となった。つまり、気候変動にどう対処していくかが選挙の争点になったのである。ハワード政権は京都議定書を批准しなかったが、それに対して新たに首相の座についたラッド氏は京都議定書を批准することを公約した。オーストラリア国民は、温暖化を根絶しない限りオーストラリアのかんばつ問題は解決しないと判断し、結局、ラッド氏が選挙に勝ち、11年ぶりに労働党政権が誕生したのだ。
それが1つのきっかけとなって、地球温暖化問題は世界各国で政治を動かすますます重要な要因になっていくものと思われる。つまり、気候変動にどう対応するかが、政策の重要な争点になっていくということである。
フランスのサルコジ大統領は2007年10月、環境ニューディール政策を打ち出している。フランスは温暖化対策で世界のリーダーになるべきだとして、空港や高速道路はもう要らないし、これから必要なのは高速鉄道網と都市部における自転車レーンだとしている。これは、非常に大きな変化である。
CO2の排出量がものごとの判断基準になる時代
ドイツでは2020年までにCO2排出量を40%削減することを目標として掲げ、それを実現するための法案作りを進めている。その中では、自動車に対する課税基準を重量から、走行距離1キロメートルあたりのCO2排出量に変えることも考えられている。
米国では、東部、中部、西部の3つの地域で隣接する州が連合体を作り、その地域内でCO2の排出量の削減を図るために、取引制度を導入している。さらに市のレベルでは、シアトル市長の呼びかけに830市が応える形で、連邦政府が離脱した京都議定書レベルのCO2排出量の削減に取り組み始めている。
その背景には、世論の変化がある。2005年8月にルイジアナ州がハリケーン・カトリーナに襲われたことが最大の要因になり、米国は2006年にグリーンになったと言われている。また訴訟大国と呼ばれる米国では、地球温暖化の原因をめぐって数多くの裁判が行われている。州と連邦政府の争いでは、2007年4月に連邦裁判所の最高裁で、自動車の排気ガスに含まれているCO2は大気汚染物質であるという判決が出た。さらに、州と電力会社、自動車メーカーとの訴訟合戦も行われている。
米国社会では地球温暖化問題が着々と消化され始めていると言える。明らかに、CO2問題への取り組みについては日本よりはるかに先を行っているのである。
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