環境配慮型ビジネスにマネーがどんどん動く
2007年1月、売上高が総計2兆ドルにのぼる米国の大企業約30社が名を連ねるUSCAPというグループが声明を発表した。それは、米国でもCO2の排出量取引制度を導入すべきだというものだった。CO2の排出量削減のためには、世界規模での規制が必要であり、規制こそはイノベーションの源泉であり、イノベーションこそは米国の産業の国際競争力を高めるものだからだ、というのである。
科学的知見から、CO2が地球温暖化の原因になっていることは明らかであり、それへの対応が遅れれば遅れるほど被害が大きくなる。早く対応すればするほど、コストが少なくてすむ。だとしたら、早く対応を取るのは当然だ、というのが米国のビジネス上の視点である。
GEのインメルト会長は、自社の温暖化に対するビジネスの戦略を「Green is green」という言葉で表現している。最初のGreenは環境で、2つ目のGreenはドル紙幣を意味している。つまり、消費者は環境配慮型商品を求めており、そのニーズに応える商品は売れるし、商品が売れれば会社が儲かり、会社が儲かればもちろん株主は喜ぶが、一番大きなベネフィットを受けるのは社会なのだということだ。
こういうビジネス・ストーリーは非常に好ましいし、実際にお金も随分と動き始めている。例えば再生可能なエネルギーの分野に2007年には15兆円も新規投資されている。さらに、ソーラーバレーへのベンチャーキャピタルの流入は2007年には2700億円だったものが、2010年には2兆円に達すると予測されている。こうした数字からも、世界では今、再生可能なエネルギーの分野にホットなマネーがどんどん動き始めていることが分かる。
CO2本位制がすでに始まっている
今や、許容されるCO2の排出量が我々の経済活動の大きさを規制する時代である。つまり、CO2本位制の始まりである。したがって、CO2の排出量を削減することは最も重要だが、同時に排出量の許容範囲内でどのようにしてベネフィットを最大化するかの競争も非常に重要である。つまり、カーボン・プロダクティビティで最も成功する国や産業が、これから大きく羽ばたくことになるということである。
そうなると当然、CO2を排出するのは悪いことであり、CO2を削減するのは良いことだ、という新しい価値観が必要になるし、ビジネス・ルールも変わってくる。かつては地球温暖化や貧困、感染症の拡大といったような地球社会が抱える問題については、パブリックセクターが解決の主体になっていた。しかし今、パブリックセクターは総対的に力を失っており、それに代わって企業がもっと真正面から解決に取り組むことが求められている。
イギリスでは、スーパーマーケットが消費者全員が参加する緑の消費革命を起こそうとしている。商品に消費者が判断材料にすることができる環境情報を付け、価格も消費者の手が届くものにすることで、消費者が環境配慮型商品を買うような世界を作るということである。
ヨーロッパのある世論調査によると、ヨーロッパでは少々高くても、環境配慮型商品を買いたいという消費者が増えているそうだ。明らかに20世紀型の大量生産・大量消費というビジネスモデルは壁にぶち当たっている。21世紀は地球環境が許す範囲内で優れたものをじっくり使うというような時代になる。
日本は世界と温暖化に対する危機感を共有し、その問題の解決に国民全員が参加する社会システムを構築し、21世紀前半の世界のリーダーの仲間入りを果たさなければいけない。気候変動政策とは、単に温暖化ガスを削減するための枠組みを決めることではなく、国や産業政策、政治、消費のあり方、庶民の生き方も包含した包括的な問題を考えることである。逆に言えば、21世紀に日本が厳しい競争の枠を生き抜いていくために打たなければならない政策を、気候変動という衣を被せて実行するということである。それを危機にするのか、好機にするのか、日本は今、大きな分かれ道に差し掛かっているのである。
(早稲田大学IT戦略研究所主催、エグゼクティブリーダーズフォーラム第22回インタラクティブ・ミーティング講演「地球温暖化が変える企業経営」より)
プロフィール
すえよし・たけじろう 日興アセットマネジメント副社長時代にUNEPFIの運営委員会のメンバーに就任。これをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。2002年6月の退社を機に、UNEPFI国際会議の東京招致に専念。2003年10月の東京会議を成功裏に終えた。現在も、引き続きUNEPFIに関わるほか、環境問題や企業の社会的責任(CSR/SRI)について、各種審議会、講演、TV等で啓蒙に努めている。この他、社外取締役や社外監査役にも就いている。著書に「日本新生」北星堂、「カーボン・リスク」北星堂(共著)、「有害連鎖」幻冬舎。
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