【第10回】社内の“裸の王様”は誰か?:ミドルが経営を変える(1/2 ページ)
子会社が親会社の圧力から脱却し独立性を高める方法として、株式市場への上場を果たし、株主や投資家、顧客など多くのステークホルダーを評価者として取り込むことが必要だという。
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日本企業と欧米企業の組織構造を見たとき、決定的に異なる点がある。例えば大規模な企業の場合、それを頂点(親会社)として傘下に資本関係のある多数の別会社を擁する構造になっている点はよく似ている。しかし、別会社が他社とのジョイントベンチャーである場合を除けば、欧米ではグループ傘下の多くは100%子会社である。
日本企業の場合は、各地の製造子会社や販売子会社など多数の100%子会社が存在する一方で、親会社との資本的なつながりを維持すると同時に、上場企業でもあるという子会社、関連会社は少なくなかった(図1)。
筆者の研究テーマの一つが、上場子会社および関連会社(以下、上場子会社)という組織設計が持つ合理性である。一般的にある事業部門が親会社の一事業部ではなく独立した別法人、子会社とされる理由については、「分権化」、つまり子会社化することでより大きな権限を与えることができるという説明がなされることが多かった。
グループ本社からの独立性を高める子会社
筆者の研究では、別法人となることで「制度的独立性」が高まり、企業経営上、いくつかのメリットをもたらすため、社内の事業部門ではなく子会社という選択がなされるといった議論を進めてきた。
制度的独立性とは、別法人である子会社が、金融資本市場あるいは労働市場と直接取引を行うことによって高まっていくものである。親会社の事業部門であれば、直接外部の金融資本市場から資金を調達することはできない。
しかし別法人であれば、100%子会社といえども銀行から直接資金調達することが可能となる。さらに当該の子会社が上場を果たせば、外部の投資家から幅広く資金を調達できるようになる。こうした状況になれば、制度的独立性は非常に高まった状態だといえる。
評価者の数は事業部門の比ではない
制度的独立性が高まっていくと何が起こるか。社内の事業部長であれば決して起こりえないことが起こる。それは、子会社の社長に対して経営成果を評価する主体が唯一ではなくなるのである。社内の事業部長に対しては、本社の経営トップのみが評価を下すことになる。評価に応じて、事業部長への賞罰が与えられる。これは本社の統治機能と呼ばれる重要な機能の一つである*1。かたや子会社の社長に対しては、例えば銀行が経営成果を評する。評価の結果は次の融資条件を左右するものとなり、評価主体も複数化、多元化するのである。
子会社が上場した場合にはさらに多元化が進む。株式市場には無数の投資家が参加しており、それぞれの判断がひとまとまりとなって株価が形成される。株式市場は、誰が評価を下しているのか分からない場所である。子会社の経営者は、そうした場で評価にさらされるわけである。
評価主体の多元化が進むと、いくつものメリットが生まれてくる*2。一つは、事業部門の成果評価の客観性を高めることができる。本社にとってみれば自らが下した評価のみならず、他者の評価も参考にすることが可能となる。銀行であれば特に財務的な側面から、株式市場であれば、ある投資家は財務的な側面から、別の投資家は対象企業が持つ技術のポテンシャルの側面からといったようにそれぞれ判断を下すのである。
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