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【第10回】社内の“裸の王様”は誰か?ミドルが経営を変える(2/2 ページ)

子会社が親会社の圧力から脱却し独立性を高める方法として、株式市場への上場を果たし、株主や投資家、顧客など多くのステークホルダーを評価者として取り込むことが必要だという。

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本社の裸の王様を防ぐ

 評価者が増えることによって、子会社の経営者はさらに独立性を高めることも可能になる。銀行や株式市場といった本社以外の評価者を満足させる経営成果を挙げることができれば、子会社の経営者は時には本社の意にそぐわない戦略を立案、遂行することも可能となる。社外の評価者が満足しているのであれば、本社のトップといえども簡単には上場子会社のトップを罷免することはできない。仮に強行した場合には、市場のみならず、社会的な批判までも覚悟せねばならない。

 企業の組織階層の頂点にある本社、そのトップに向かって、事業部門が与えられた戦略ミッションに異を唱えることは難しい。トップが唯一の評価者だからだ。しかし子会社の経営者の場合には、ほかの評価者を後ろ盾に本社のトップに対して異見を述べることができる。傘下にある組織からの発言は、本社が“裸の王様”になることを防止し、企業経営の健全性の維持に貢献してきたと考えられよう。

企業OBは心ある小うるさいおやじ

 例えば、イトーヨーカ堂とセブン−イレブン・ジャパンのように、親子で時価総額の逆転現象がみられ、その解消を目的として連結レベルでの経営戦略の統一がなされるなど、最近はさまざまな理由で上場子会社の完全子会社化が進められてきた。

 それぞれが相応の妥当性を持つと思われる。しかしながら、制度設計の見直しにおいては、企業が持っていた見えないメリットが消されることになってしまわないのかという視点も忘れるべきではない。

 そうした視点においては、バブル崩壊後に多くの企業が進めてきた顧問制度の廃止が必ずしもよい面ばかりではなかったことが分かるはずだ。顧問制度は、退職した人物に対して過分の報酬や利便を与えるのは非効率だという理由から廃止が当然視されたものである。しかし、OBに対して社内事情に精通し会社の発展を真剣に祈念する「心ある小うるさいおやじ」といった側面は持たなかったのだろうか。


プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。


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