「裸の王様」――小室哲哉を反面教師に:問われるコーチング力(1/2 ページ)
優れたリーダーになるためには、自らの資質に加えて、過ちを遠慮なく指摘するような周りの環境が必要だという。弱点には触れさせず強みばかりを誇示するリーダーはいずれ「裸の王様」になってしまうだろう。
「問われるコーチング力」バックナンバーはこちら
前回、2008年を象徴するキーワードの1つである「せいだ病」について話した。今回は、リーダーの視点に立って振り返りたい。テーマは「裸の王様」である。
「裸の王様だった」――著作権をめぐって詐欺容疑で逮捕され、保釈された小室哲哉氏が述べた言葉である。敏腕音楽プロデューサーが、どうしてあそこまで、落ちぶれてしまったのだろうか? 彼は1990年代に数々のヒット曲を作り、多くの人を魅了した。1996年、1997年の長者番付では2年連続4位になり、相当な資産も築いた。自分の才能と資産を生かしていろいろなことができたはずである。しかし、実際にはぜいたく三昧の暮らしをして、香港のビジネスで失敗し、多額の借金を抱える身となった。資金繰りに困った揚げ句にこのような詐欺事件を起こしたのである。
彼を見ながら、リーダーに必要なものは何なのか考えてみた。結論としては次の2つが導き出された。
1. 自分に苦言を呈する人を周りに置く
2. パブリックな視点を持つ
リーダーの弱みを遠慮なく指摘する人材が必要
1つ目について、もし小室哲哉氏の周りに苦言を呈する人がいたら、状況はかなり変わっていたと思う。彼がプロデュースした曲が次から次へと大ヒットし、何もかもが順風満帆に進んでいたときに、「これで大丈夫だろうか」「これからどうするのか」といったことを口にした人はいただろうか? 企業のリーダーや経営者もこのような状況に陥りやすい。彼らはそれなりの実績を残した自負があり、自分に自信がある。「自分はすごい」「自分は優秀だ」と思いがちである。
そうした人にはもちろん強い点があるが、弱い点もある。自分の弱い点を指摘してくれる人がいないと、暴走して、結局は失敗し駄目になる。まさに裸の王様である。リーダーの周りに自分の強い面だけを持ち上げる人ばかり集まったら、小室哲哉氏と同じ運命をたどることになる。わたしはビジネスコーチングを通して、多くの日本企業のリーダーのスキル開発に携わっている。日本には優秀で資質の高いリーダーがたくさんいるが、そういう人たちが自分の弱いところ、直すべきところを改善したら、さらなる飛躍を遂げられるのではないかと痛感する。
以前も話した通り、わたし自身は苦言を呈する人を身近に置いている。わたしの問題点について彼から定期的にフィードバックをもらっている。もちろんわたしは完璧な人間ではないので、言われたときには気分が悪い。ただ、人は服装や容姿を見る鏡はあるが、言動を見る鏡はない。リーダーにとって、部下やほかの社員が鏡になればいいが、立場の違いもあり難しく、本音をなかなか言わないというデメリットもある。わたしは自分に遠慮なく苦言を呈する人を置いて、弱点の指摘を受け、改善に努めている。
苦言を呈する人は、自分が信頼できる人に頼めばよい。尊敬する経営者や親交のある人に頼むのもいいだろう。もしいない場合は、わたしたちのような専門のトレーニングを受け、経験のあるエグゼクティブコーチを雇うのがいいだろう。
楽天の三木谷浩史社長は、日本興業銀行に勤めていたときに組織の中で自分がどのように映っているかを学び、自分の強さも弱さも知っていたはずだ。従って、そのときの人脈を利用して、周りに信頼できる人を配置し、適宜アドバイスをもらっている。世界に目を向けると、米Microsoftを凌ぐ巨大IT企業に成長した米Googleを立ち上げたラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏がいる。彼らは、自分たちはエンジニアであり企業経営には長けていないことを認識していた。そこで、米Sun MicrosystemsでCTO(最高技術責任者)および役員を務めたエリック・シュミット氏をCEO(最高経営責任者)に迎え、経営のアドバイスを受け、成功を収めている。
経営者やリーダーになったのならば、強いところではなく、自分の弱いところを改善することが何よりも大切であり、苦言を呈する人を置くこと、そのようなシステムを作ることが重要である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.