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【第2回】基本理念が企業の存続危機を救った加速するグローバル人材戦略(2/3 ページ)

グローバル展開する企業において、その指針でありよりどころになるのが基本理念である。1990年代前半、経営の危機にひんしていたIBMは企業理念を再構築することで復活を遂げた。

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状況・時代により異なるとらえ方

 これらの基本理念は用語だけではなく、組織の状況や成長ステージによっても、とらえ方はさまざまだ。例えば、起業したばかりのベンチャー企業が、世界事業でNo.1になるという将来像をよりどころに急成長する場合もあれば、既存の大手企業が使命に立ち戻り価値観を再構築する場合もある。

 企業存続の危機において再構築された基本理念がある。1993年、ルー・ガースナーは当時深刻な存続の危機にさらされていたIBMのCEOに就任した。そこで彼がとった行動は、市場(顧客)を軸にした基本理念の再構築であり、その浸透である。基本原則(A statement of principle)として彼は「市場(Marketplace)こそ、われわれが行うすべての活動の原動力(Driving force)である」とした。それまでのIBMの理念は 「個人の尊重」という従業員の視点だったが、ガースナーは市場の視点による解釈に変えた。その後のIBM復活劇はご存じの通りである(パトリシア・ジョーンズ著「世界最強の社訓」より)。

 時代に合わせた改訂を行いながらも、その骨子は変わらない基本理念がある。上述した米Johnson&Johnsonの「我が信条」は、数々の見直しを得ながらも60年以上にわたり組織の指針となっている。1970年代に「我が信条」を見直す動きとして、「クレドー(信条)・チャレンジ・ミーティング」が実施された。当時の経営陣からマネージャーを中心に、本当に「我が信条」を組織のよりどころとして保持していくべきか否かを真摯に問い直す討議である。結果、「我が信条」の価値観は再度確認され、時代に則した内容となるよう表現が変更され、1979年に改訂版が発表されている。「我が信条」に立ち戻り、消費者の命を守ることを最優先事項とすることで危機も乗り切った。1980年代に米国で起きたタイレノール事件(鎮痛剤の品質問題事件)の際には、赤字覚悟で全商品を回収し、安全包装で再度出荷することで信頼を取り戻した。

 ちなみに米Johnson&Johnsonの「我が信条」は、掲げるのみならず多様な浸透施策もあわせ持つ。 信条を重んじるリーダーを育てることを人材マネジメントの目標とし、会社がどれだけ“信条”に忠実かを従業員に問う「信条アンケート」、このアンケート結果を討議する「クレドー・チャレンジ・ミーティング」、上司が“信条”に沿って行動しているかどうかを部下が評価する仕組みなどである(パトリシア・ジョーンズ著「世界最強の社訓」より)。また、信条に従ってどのような行動をとるか、個別の具体例を取り上げワークショップも行われている。偉大なる価値観とは、宣言するだけでは終わらず、地道な浸透施策に裏打ちされている。

 事業のグローバル化とともに進化し再構築される基本理念もある。例えばトヨタは、1992年1月に「トヨタ基本理念」を策定し、1997年4月には全社の行動指針として、人や社会、地球環境と調和した成長を加える改定を行った。同時に環境に配慮した「地球環境憲章」を策定しグローバル企業としての環境理念を打ち出した。事業がグローバル化するに従い、地球環境の保全を最重要経営課題ととらえた。2002年4月には、基本理念を踏まえた将来像である「2010年グローバルビジョン」が策定され、トヨタが社会、人、地球に果たすべき目標を多面的に示した。この将来像から、「第四次トヨタ環境取組プラン」として環境問題に関する目標を具現化した。各経営機能(研究開発、製造、販売)が具体的な数値目標を持つ、企業全体としての緻密な取り組みである。事業のグローバル化とともに、グローバル企業としての進化を遂げた。

地域環境憲章の構造
地域環境憲章の構造

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