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【第2回】基本理念が企業の存続危機を救った加速するグローバル人材戦略(3/3 ページ)

グローバル展開する企業において、その指針でありよりどころになるのが基本理念である。1990年代前半、経営の危機にひんしていたIBMは企業理念を再構築することで復活を遂げた。

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グローバルであることの特徴

 そもそも基本理念とは、業務ルールで人を統制するのではなく、使命や価値観で人を束ねることが狙いである。また将来像を全社員が共有することで同じ方向性を持つことでもある。これら基本理念の実現は、海外市場に進出した日本企業が直面する大きな課題ではないだろうか。世界規模で事業を展開することは、人材の多様性を抱え込む。どのようにして現地社員をグローバル組織の一員として扱い、共に業績を上げていくのか。鍵は業務ルールやガイドラインではなく、組織の基本理念である。

 グローバル事業であるが故に、各国の慣習や文化により基本理念が異なる解釈をされてしまう場合もある。例えば中近東やアジア新興国では、賄賂が常習化している国が多数存在する。環境問題に関して、社会的意義が認知されてない国も存在する。このような国での事業は、賄賂を認めるべきか否か、コストを掛けて環境問題に対応し社会活動に参加すべきなのか否か、答えは存在しない。

 国の文化的違いは、組織文化に影響を及ぼす。個人主義か集団主義か、合意型経営かトップダウン型経営かである。概して日本企業は集団主義を前提にしているため、個人を単位とした評価や行動は必ずしもその企業文化と一致しない。最近ではトヨタ首脳が1990年代後半に見直した人事制度が間違いだったと告白している。「35歳で社外に出ても、年収1000万円を稼げる能力を身に付けろ」として、個人能力主体の報酬に変更した件である(日経新聞2008年11月24日付朝刊)。集団主義を前提とした企業が、チームではなく個人の業績評価への変更は、結果として企業の強みや価値観との不一致を引き起こしかねない。とはいえ各国特有の価値観や文化は、制約事項ではない。グローバル理念とは、世界各地の異なる価値観を乗り越えて一体感を生むために、どのような基本理念を構築し、共有することで、グローバル組織の文化を確立するかが論点である。

 かつてグローバル企業の実務は、業務におけるルールでいかに命令し統制するかが課題だった。しかし外部環境は大きく変化するフラット化時代においては、いかに人を統制するかではなく、いかに現場やミドルクラスが自身で意思決定し、行動し、業績を上げるかにかかっている。世界規模の組織は、普遍性と独自性を併せ持つ基本理念の構築と浸透が欠かせない。外部環境が変化すればするほど、より基本理念に沿った、自律性ある判断や意思決定が必要になるからだ。

 次回はグローバル戦略として、グローバル化とローカル化、イノベーションとその構造について述べたい。


プロフィール

岩下仁(いわした ひとし)

バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。

現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバリゼーションの処方箋”を執筆中。


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