チャンスを生かせないトップは存在価値なし:間違いだらけのIT経営(1/2 ページ)
企業が事業を進めるにあたり、時には法令に対応しなければならない。それを「面倒くさい」と言っておろそかにするような経営者は話にならない。
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情報機器メーカーである中堅企業A社のCIO(最高情報責任者)から、J-SOX法(金融商品取引法)適用に当たってのトップの姿勢について相談が持ちかけられた。トップのB社長は、公にはJ-SOX法の対応は企業にとって必要であるという姿勢をとっているが、本音はコンピュータメーカーをもうけさせるだけであって、企業にとっては手間が掛かって迷惑なことであり、法律上やらなければならないのなら、なるべく手を掛けずに適当にやっておけという考え方を持つ。従って、J-SOX法対応推進の当事者としては非常にやりにくくて困惑しているということだった。
その話を聞いた筆者は、A社が何年か前にISO9001(国際標準化機構ISOが、1987年に制定した品質管理システムの国際規格)への取り組みで、やはりB社長が消極的で、関係者が困惑していたことを思い出した。B社長の考え方は当時から変わっておらず、J-SOX法対応がISO9001対応とまったく同じ状況に置かれているようだ。それでは効果は期待できない。
ISO9001対応時のA社の状況は、B社長の経営姿勢を如実に表していた。その経営姿勢が今回のJ-SOX法対応の根底にもあるため、当時の状況を振り返ることで反省点を浮かび上がらせることができよう。
上層のやり方に疲弊する社員たち
B社長がISO9001について無知で、一切勉強しようともせず、明確な方針も出さなかったことがそもそも問題であったが、現場から積極的な協力が得られない中でC品質管理部長が高圧的に物事を進めた点にも問題があった。
「ISO9001の認証取得審査がある」という大義名分を振りかざしたC部長の音頭で、関連部門は品質マニュアル、技術基準書、作業基準書、検査票など、数センチの厚さの冊子が何冊もできるような膨大な文書作成に振り回された。
その後の予備審査、文書審査を経て模擬審査、本番審査への対応、いざ認証を取得した後の記録の保管管理、内部監査、審査機関による定期的フォローアップに現場は追われた。そこでは、ISO9001適用の明確な方針や社内同意がないまま、とにかく体裁を整えるのだという姿勢が支配的だった。「何のためのISO9001取得なのだ」とA社全体に大きな疑問の渦が巻いたのは必然だった。
トップダウンでの実行が重要
そういう社内状況をB社長が意に介さなかったことも問題だった。B社長は極端な例かもしれないが、B社長ほど積極的にISO9001への対応に否定的姿勢を示さないまでも、消極的に否定をしたり、関心を示さなかったりするトップは少なくない。だから、問題なのである。
これでは、せっかくのISO9001適用が役に立たないばかりか、企業にとってマイナスになる。ISO9001は、単なる製品の品質保証認証ではなく、「顧客満足」を目指す仕組み作りであり、これを機会に経営改革を目指すことができる。ISO9001により、企業イメージが向上するだけでなく、組織の活性化やビジネスチャンスの拡大などにつながる。せっかくの経営改革のチャンスを無駄にすることはない。トップが明確な方針を示し、全社を挙げて積極的に取り組むべきものである。
そのことをB社長が認識していれば、明確な方針を示して全社の意識改革ができる。そうすればA社は、トップをはじめ関係者がより簡便なISO9001への対応方法をいくらでも工夫して、過剰で不要な負担を関係者に与えずに済んだはずだった。
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